よみもの・連載

大人の旅の物語

1 男二人は聖地を目指す

遠藤彩見Saemi Endo

 人のいない場所を探し、社務所の横に行った。いつもより少し声を小さくして電話を掛けると、リーダーと呼んでいる定時連絡の相手が出た。
「梨本くん、どう? 進捗状況は」
「これからです」
「そう、頑張ってね。月末が近いから」
 切ろうとするリーダーに「あの」と呼びかけた。
「気力がアップするような栄養素……ビタミンって何ですかね?」
「うつ?」
「分かりませんけど、そうかも。うつまで行かなくても、元気がないというか」
「うつにはビタミンB群だよ。ハーブならセントジョーンズワートとか。え、それって梨本くん、まさか自分用?」
「いえ、違います。友だちがちょっと」
「よかった。また嫁ブロックで揉(も)めてるのかと思ったよ」
 笑ったリーダーと挨拶を交わして通話を終えたところで、梨本は思い出した。
 ──嫁ブロック。
 スマホをポケットに入れながら、さっきも誰かが言っていたなと記憶を探る。
 有沢と松本で合流して自慢のマイカーを見せたときだ。
「ナシ、仕事?」
 振り返ると有沢がご神水を入れたペットボトルを手に立っている。探るようなその表情を見て、もしかして、と梨本の胸に疑念が湧いた。
「アリ、最近いつメンと会った?」
 梨本を始めとするいつメンの多くは東京近郊に固まっている。名古屋に住む有沢は、梨本以外のいつメンとも、二年間会っていないとばかり思っていた。
 梨本の視線を、有沢が真正面から受け止めた。
「会ったよ。二カ月前、神崎が出張で名古屋に来て」
 ようやく有沢の悩みが何なのか分かった。
 梨本のことだったのだ。

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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