よみもの・連載

大人の旅の物語

1 男二人は聖地を目指す

遠藤彩見Saemi Endo

 結婚パーティーのことを話したときの、有沢の怪訝そうな顔が頭に浮かぶ。神道でやり合ったときの言葉も。
 ──上から目線なんかじゃないって。
 歩きながら電話を掛けた。出てくれた有沢に確かめる。
「ホウミツ社にいんだろ?」
「宝光(ほうこう)社だよ」
 梨本が思った通り、真面目な有沢が五社めぐりをリタイアするわけがない。
「俺と一緒にビジネスやってるって神崎に言ったんだって?」
「誰から聞いたの?」
「嫌いだって言ってたじゃん。わざわざ一緒にハブられるとか意味分かんねえよ」
「俺がヘビ子にハマってたとき、ナシは一回ガーッと怒ったけどあとはうるさいこと言わずに一緒にいてくれたじゃん。戻れる程度にしとけよ、とか言ってさ」
「そんなこと言ったっけ」
「旅は帰りが寂しかったり空しかったりするし、長い旅だと日常に戻るまでが何かと大変だけど、誰かと一緒なら心強いじゃない。俺も、あのときそうだったから」
 梨本は返す言葉が見つからず、ただ唇を噛んだ。
 宝光社の鳥居に辿(たど)りついた。くぐった瞬間、目を見張った。
「うお、すげえ階段」
 奥社と同じくらい急な上り階段だ。見上げても頂上は白光りして見えない。
「二百八十段近くあるよ。頑張って」
 電話が切れた。
 梨本は階段と向かい合い、見えない頂上を見上げた。
 前に進むしかないと思っていた。でも、戻ることもできるのだ。
 まだ心は決まらない。それでも階段を上がり始める。
 ──目に見えない力を感じる場所、エネルギーや癒やしを与えてもらえる場所なんだ。
 頂上で親友というパワースポットが梨本を待っている。

(了)

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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