よみもの・連載

大人の旅の物語

2 癒やしのホテル

遠藤彩見Saemi Endo

 ――人工整形女神。
 以前台北の原宿と呼ばれる西門通(シーメンディン)で、大きな看板を見た。整形前・整形後の写真を並べたものだ。
 台北やソウルの繁華街だけではない。整形カミングアウト、整形ブログ、整形アカウント。日本のテレビやインターネットやSNSで、美容整形の話題を、男の門松でさえよく目にする。門松が子どものころと比べたら、美容整形手術は遥かにメジャーになったと思う。その証拠が、今見た整形女子たちの屈託ない笑顔なのだろう。
 さっき屋上で出くわした包帯女は地元の人なのだろうか。あの包帯の下にも、さっきの三人組のような屈託のなさが隠れていたりするのだろうか。
「エクスキューズミー、サー」
 フロントを担当している女性スタッフが、書類を手に歩み寄ってくる。チェックインのときに受け取り忘れたものだ。
 微笑んで礼を言うと、女性スタッフの頬が淡く染まったのが分かった。
 カウンターに戻った女性スタッフは、同じフロント担当の女性に早口の韓国語でささやいている。話を聞いている女性と二人、門松をちらちらと見てくる。
「お待たせして申し訳ありません」
 ソウル支店の社員・成田が表に続くガラスの両開きドアから足早に入ってきた。顧客回りをするために再び車で迎えに来てくれたのだ。約束の時間を十分近く過ぎている。
「この時間は道が混んでまして、どうしても。部屋はいかがでしたか?」
 成田が外に向かいながら門松に尋ねる。
 門松より一回り年上の成田だが、二度目の出張でも敬語を使っている。門松の会社では本社の人間より下とされる、現地採用の社員であることを意識してのことだろう。
「うーん、部屋が薄暗いんですけど。なんか、窓が変な風に塞がれてるんですよね」
「あれは医療観光で泊まる患者さんのためじゃないでしょうか。薄暗い方が心が安まるから、って支店の女性スタッフが言って――」
「いや、それは分かりますけど。ホテルに日本人スタッフがいたら、そういうところもちゃんと気配りして、チェックインのときに教えてもらえたのになあ、って」
「すみません。急なのと、ハイシーズンで……。場所と予算がハマって、日本語スタッフがいて、門松さんがご希望のバスタブと全身鏡があるダブル以上の部屋はなかなか」
「いいですよ。我慢しますから」
 成田がもう一度「すみません」と頭を下げた。
「門松さん、お疲れでしょうが、よろしければ打ち合わせが終わったあと食事会はどうですか? 前回は忙しくて何もできませんでしたし、支店のスタッフとの情報交換や、コミュニケーションを兼ねてぜひ」
「これから支店に行くじゃないですか。そのときでいいですよ」
「いえ、業務中はなかなか話せないとスタッフが申しておりますので」
 しつこい成田につい語調が荒くなった。
「夜は接待以外は自由にさせてください。俺、やることがありますので」

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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