よみもの・連載

大人の旅の物語

3 空飛ぶ修行

遠藤彩見Saemi Endo

 それを話すと栞が風馬の顔を見つめた。
「もしかして、私のこと、何か疑ってるの?」
「疑ってるとかじゃなくて、どういう意味だったのか知りたいって話。剣崎、なんか恰好(かっこう)もいつもと違うし」
「お客様!」
 大声の呼びかけにびくりと振り返ると、風馬たちの前にぽかりと空間ができている。熟年グループは消え、係員たちの引きつった顔が風馬たちに向いている。
 あわてて前に進み、スマホを読み取り機に当てた瞬間、ブザーが鳴り響いた。
 何だどうしたとあわてていると、係員が風馬と栞を近くのカウンターに連れていった。後ろに並んでいた福岡や大阪行きの客が前に進む。焦る風馬に係員が早口で尋ねた。
「お客様、いつから並んでましたか?」
「搭乗の二十分以上前から──」
「恐れ入りますが現在出発時刻の十五分前を切っておりまして、搭乗を締め切らせていただきました」
 足元がふらついた。
「いや、俺たち並んでたんですって、ちゃんと。でも前の人たちが手間取って進めなかっただけで──」
「私たちが乗らなかったら二席空いちゃうじゃないですか、ロイヤルクラスなのに」
 風馬を栞が遮り、栞を係員が遮る。
「恐れ入りますがキャンセル扱いとなりまして、空席待ちのお客様のお席となりました。ロイヤルクラスは満席でございます。普通席でしたらご用意できますが」
 栞と顔を見合わせた。
 栞が早口で風馬にささやく。
「どうせ振替なら、帰るのは明日にして那覇に一泊しよう」
「ネカフェ?」
「違う。ちゃんと横になれるとこで休むの」
 珍しく真剣な訴えだ。係員も早口で迫る。
「お急ぎください」
「横になってゆっくり休もう。私たち疲れてるし」
「お客様」
「乗ります」
 栞の顔は見ずに言い切り、先導する係員について走り出した。

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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