よみもの・連載

大人の旅の物語

3 空飛ぶ修行

遠藤彩見Saemi Endo

 また爆睡女をまたいで席に戻った。
 座って左側を向いた瞬間、栞が閉じていた目を開ける。疲れているのに寝ずにいたのだ。それを見て覚悟を決めた。
 言い訳など通じない。前を向いたまま切り出した。
「夏前から俺、夜、学校に通ってて。学校っていうか講座? 起業に関する講座で、自分で会社を興すための、経理とか法律のノウハウを教えてくれるところに。まあ、手短に言うと、会社を辞めて独立しようと思ってて」
 じっとこちらを見ている栞と、思い切って視線を合わせた。
「地元の宮崎で、会社を立ち上げたい」
 栞が小さく息を呑んだ。
「いや、まだ宮崎に完全移住することは考えてなくて、東京と二拠点でやれたら、って思ってる。それには飛行機の移動が欠かせないし、だから修行をしてLMCの会員になりたいと思った。移動が楽になるからだけじゃない。会社の代表に相応(ふさわ)しいステイタスが少しでも欲しかったんだ」
「──」
「黙っててごめん。バーに行ったってことにして講座に通ってたのも──」
 口をつぐんだ。栞が風馬を拒むように前を向いたからだ。

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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