よみもの・連載

大人の旅の物語

3 空飛ぶ修行

遠藤彩見Saemi Endo

「剣崎さんも那覇に来てたんですか。何かいつもと雰囲気が違いますね。って、そのくらいだよ。名前を呼んで現状確認をしただけ」
「俺も、剣崎さん? って名前を呼んで、剣崎さんですよね、って繰り返して。って、名前を呼んだだけだし——」
 その瞬間、頭の中で栓が弾けた。
 起きた出来事を、もう一度振り返る。
「剣崎が突然、大人っぽい恰好をしていた。そして、少なくとも保安検査場では、連れの彼女と離れて一人。栞に名前を呼ばれた。唐突に栞の腕を引っ張った。俺に名前を呼ばれた。『やばい』。あ、あと、剣崎はスマホを持ってるのに、わざわざ印刷した搭乗バーコードで保安検査場を通過して飛行機に乗った。もしかして」
 風馬は座席の前ポケットに入れていたクリアファイルを引っ張り出し、裏紙を探して引っ張り出した。
「栞、CAさんを呼んで。今、どの辺飛んでる? 間に合うかな」
 一緒に目で探すと、モニターの飛行ルートは静岡の辺りまで来ている。
 栞が押したコールボタンに応えてCAがやってきた。風馬は裏紙を四つに折り畳み、CAに差し出した。
「三列目のA、窓際にいる剣崎宙也さん、僕たちの知り合いなんです。これを、渡してもらえますか?」
「三列目のAにいらっしゃる、剣崎宙也さま、でございますか?」
「はい。剣崎さんの方が前に座ってるから、飛行機を降りたら見失ってしまいそうなので。剣崎さん、け・ん・ざ・き・ち・ゅ・う・や、さんです」
 CAに念入りに告げ、そして一呼吸おいて付け加える。
「あの、万が一、人違いだったら恥ずかしいので、三列目の窓際に座っているのは剣崎さんか、そちらの搭乗者名簿で確認してもらえますか?」

プロフィール

遠藤彩見(えんどう・さえみ) 東京都生まれ。1996年、脚本家デビュー。テレビドラマ「入道雲は白 夏の空は青」で第16回ATP賞ドラマ部門最優秀賞を受賞。2013年、初めての小説『給食のおにいさん』を発表。著書に、シリーズ化された同作のほか、『キッチン・ブルー』『イメコン』『バー極楽』『千のグラスを満たすには』などがある。

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