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集英社文庫創刊40周年特別企画
パーフェクトワールド刊行記念インタビュー
馳星周 歪みと熱気の沖縄返還前夜
◆歪みと熱気の沖縄返還前夜◆ 馳 星周 hase seisyu
「週刊プレイボーイ」での連載が終わった後、二〇〇八年には同じく返還前夜の沖縄を舞台にした『弥勒世』を出版していますね。
書いたのは『弥勒世』のほうが先でした。舞台もあっちが七〇年で、今回の『パーフェクトワールド』が七一年。実はこの二作の世界は繫がっていて、古謝が隠し持っていた銃器というのは『弥勒世』の主人公たちが集めたものなんです。どちらも目的はアメリカや日本からの独立。『弥勒世』のテーマは「革命」で、『パーフェクトワールド』は「クーデター」なんだけど、共通しているのは「武装蜂起」ですね。  
最初は大まかに「昭和のこと」を書きたいな、と思っていて。当時は僕も三十代後半ぐらいで怒りっぽかったので、その頃の日本がすごく腹立たしかったわけですね。なんでこんなクソみたいな社会になっているのかというと、戦後から何か間違ってしまったんだろうなという思いがあって、そういうことを書きたいと。いろいろ調べていくうちに、返還前後の沖縄に興味を持ったわけです。とにかくムチャクチャだから。今の日本人はほとんどそんなことを知らないし、気にもかけていない。それを突きつけてやりたいという気持ちもありました。  
僕は今でも、文化、習慣的に「沖縄は日本じゃない」と思っているんです。もともと琉球王国という独立国だったわけだし。それで主人公の一人である平良は沖縄独立運動に身を投じる。現実的にはあり得ないけど、小説にも書いたように、戦後補償費で日本とアメリカからがっぽり金を取っちゃえば決して不可能ではない気もします。沖縄の歴史や文化を勉強すればするほど、やっぱり沖縄は独立国だったということがよくわかりますし、それを書きたかったというのは多分にあるんです。
今では考えられませんけど、返還の頃は沖縄の独立という可能性はあったんでしょうか?
ありません。沖縄県民自身もそんなことは考えていなかったでしょう。一部には古謝や平良みたいな人もいたんですけど、まずはアメリカの支配を逃れたいというのが一番で、基本的に当時の沖縄の人たちは日本に返還されることをすごく喜んでいたと思います。アメリカといっても軍が支配していたので、本当にムチャクチャだったんですよ。基地にするために土地を奪われるわ、酔っ払った米兵に車でひかれても泣き寝入りしなきゃいけないわ、ひどい話が腐るほどあって。旧ソ連と中国に対抗するためにがんがん基地化しなきゃいけないという事情もあったにせよ、米軍から見れば所詮敗戦国ですからね。
平良の家も土地の三分の二を米軍に奪われていましたね。今でも沖縄の人はアメリカに対する怒りを抱えているんでしょうか?
今は米軍よりも日本政府に怒りが向かっているんじゃないでしょうか。まだ基地も残っているし、今だって全然ないわけじゃないだろうけど、最も怒りが強かったのはやはり返還前夜でしょう。さすがのアメリカももうダメだというので、「日本に返してなだめてもらおう」ということになったわけですから。当時の反米感情は本当に強かったんだと思いますよ。


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〈プロフィール〉
馳 星周(はせ・せいしゅう)

'65年北海道生まれ。'96年『不夜城』でデビュー、同作品で第18回吉川英治文学新人賞を受賞。'98年『鎮魂歌』で第51回日本推理作家協会賞を、'99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。著書に『ダーク・ムーン』『ソウルメイト』『アンタッチャブル』『神奈備』『蒼き山嶺』などがある。