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◆歪みと熱気の沖縄返還前夜◆ 馳 星周 hase seisyu
平良とともにもう一人の主人公となっているのが東京から来た公安警察官の大城です。作中でも指摘されるように、彼はとても「興味深い人間」ですね。政治家や上司の私利私欲を承知の上で、命じられた職務に忠実に励みます。
警察官だから、です。やはり警察官というのは公務員で、ほとんどの警察官は職務に忠実だと思いますよ。基本的に上から言われたことはやるんです。この当時、本土の公安も日本共産党を監視して盗聴したりしていた。内心バカバカしいと思っていたでしょう。戦前の共産党じゃあるまいし、政権転覆なんかできるわけないんだから。でも仕事だからやる。しかも、非合法な捜査までさせられるというね。
最初はストイックでオーソドックスなヒーローにも見えた大城は、徐々に外道ぶりを発揮していきます。あれは本性を出していったんですか? それとも変貌していったんでしょうか?
それは後者ですよ。沖縄の歪みと熱気が彼をそうさせたんです。もともと外道の人間なんかいません。環境が人を変えるんです。そしてある一線を越えるともう戻れなくなり、そのまま突き進むしかなくなってしまう……。別に大城を弁護するつもりはないけど、「こういう状況に置かれたら、みんなこうなっちゃうんじゃないの」という話ですよね。そこはこの小説で描きたいことの一つでもありました。
沖縄といえば、今年二月の名護市長選で普天間基地の移設容認派が勝ったことが大きな話題になりました。
残念ですけど、有権者が選んだ結果だから仕方ないでしょう。本当はみんな移設反対なんだけど、あまり政府に逆らっているとお金をもらえなくなっちゃうという現実もあるわけで。経済的に厳しい県なので、政府からの補助金がないと立ち行かないというのは実際にあるんですよ。基幹産業は観光しかないし。苦しくても生きてはいけるとしても、やっぱり贅沢もしたいでしょうからね。新しい車も欲しいし、服も買いたいし、いいものも食いたい。それは僕たちヤマトンチュ(本土に住む日本人)だって同じでしょう。
調べてみると、沖縄は本当にひどい目に遭っているんです。日本は沖縄を犠牲にして戦後の復興を遂げたわけですから。沖縄が国から金をもらっても当然だということは多くの人に知ってもらいたい。今の金額では全然足りませんよ。
これからの沖縄について言えば、もうリゾートは要らないんじゃないかと。軽井沢もそうなんだけど、もう飽和しているでしょう。夏の軽井沢なんてメチャクチャ人が来ていて車で動けない。これ以上、人を呼んでどうするのか。単に来る人を増やすんじゃなくて、来ている人たちにいかにお金を落としてもらうかを考えるべきなんです。沖縄のリゾート開発というのは、今や自分で自分の首を絞めているんじゃないか。豊かな自然とリゾート開発は両立しないということに、そろそろ気づかなきゃダメなんじゃないかなと思います。

構成/伊藤和弘 撮影/桜井哲也
※このインタビューは、「小説すばる」5月号に掲載された記事の転載です。


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〈プロフィール〉
馳 星周(はせ・せいしゅう)

'65年北海道生まれ。'96年『不夜城』でデビュー、同作品で第18回吉川英治文学新人賞を受賞。'98年『鎮魂歌』で第51回日本推理作家協会賞を、'99年『漂流街』で第1回大藪春彦賞を受賞。著書に『ダーク・ムーン』『ソウルメイト』『アンタッチャブル』『神奈備』『蒼き山嶺』などがある。