よみもの・連載

バンチョ高校クイズ研

第二話

蓮見恭子Kyoko Hasumi

 ぐわら、ぐわら、ぐわら。
 早朝の爽やかな空気をぶち壊しにしながら、慎太郎(しんたろう)は学校へと向かっていた。
 前を歩く者達が、順にこちらを振り返る。
 少し前からおかしな音を立てていた我がママチャリ。 何かが引っかかっているのか、今朝は特に機嫌が悪い。油でもさしてやるかと思いながら、面倒くさくて放置していたら、ついに地獄の釜が沸騰したような音で抗議し始めた。
 早めに登校した慎太郎は、自転車置き場にママチャリを止め、前後の籠(かご)から荷物を取り出す。ショルダーバッグの他に、両手に持った紙バッグがずしりと重い。教員の一日は長い。ただでさえ荷物が多い上に、弁当を二個持参していた。
 白く長い廊下の果て、社会科準備室の引き戸を開けると、目の前に巨大な回転式の地球儀が人の侵入を防ぐように現れる。ずっと以前に購入されたらしく、全体的に茶色がかっていて、「触るな。危険」、「室内では静かに移動」と黄ばんだ紙が貼られていた。ネジが馬鹿になっていて、うっかり衝撃を与えると、床に転がり落ちるという事だが、慎太郎がここに来てからは、まだそのような美味(おい)しい場面に出くわしていない。
 社会科準備室は、壁の二面にお互いが背中を向けあうような形でデスクが並び、各々のパソコンが置かれている。プリンターは中央の島に設置され、一番奥の窓際の特等席は、教科主任が二人分の場所を占領していた。
 早めに登校したというのに、部屋には既に人の姿があった。
 天見綾乃(あまみあやの)だ。
 小柄でショートカットの、スポーティーな雰囲気の女性教諭だ。彼女は慎太郎を認めると、きっと視線を強めた。
「こないだの新一年生の実力テスト、あれはないですよ。鈴木(すずき)先生」
 内心、むかっ腹が立ったが、「そうでしたっけ?」と、すっとぼけて見せる。争いごとは時間の無駄だ。だが、天見は怯(ひる)まない。
「私が受け持ってるクラスじゃブーイングの嵐でしたよ。平均点が三十点台だなんて問題、出す方が悪いんですからねっ!」
 失敬な。
 もとはと言えば、赴任して早々の俺様にいきなり作問を押し付けた教科主任が悪い。ここで出会ったのが運の尽きだと思え。嫌がらせも兼ねて、クイズの適性を見る為にひねった難問だらけにしてやったのだ。

プロフィール

蓮見恭子(はすみ・きょうこ) 1965年大阪府生まれ。2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞。
ミステリーにとどまらずスポーツもの、青春小説や人間ドラマにまで作風を広げ活躍中。
著書に「国際犯罪捜査官・蛭川タニア」シリーズ、『襷を、君に』『襷を我が手に』『シマイチ古道具商―春夏冬(あきない)人情ものがたり―』『はじまりの家』 『MGCマラソンサバイバル』などがある。

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