よみもの・連載

バンチョ高校クイズ研

第四話

蓮見恭子Kyoko Hasumi

「鈴木(すずき)先生って、御幾つなの? ま! 三十を越えてらっしゃるんですか? んまぁっ! 今でも学生服が似合いそうですよ。お世辞じゃないですってば。……ん、美味(おい)しっ」
 年の頃は四十過ぎかと思われる英語科の教諭は、真っ赤に彩られた唇をカップにつけた。
「赤い唇」こと篠崎(しのざき)だ。
「ほんと、ほんとぉ。白衣を着ていらっしゃるから、理系の研究者みたいで、女子生徒の間でファンクラブができてるんですよ。ほんとですよ。嘘(うそ)じゃないですってば」
 つやつやの髪をおかっぱにした、生徒から「こけし」とか「麗子(れいこ)」と呼ばれている音楽教諭が同意した。
「……あぁ、やっぱり、ここのチーズケーキは最高!」
「でも、エクレアもシュークリームも捨てがたいんですよねぇ。あ、こちらのクッキーも召し上がれ。さ、鈴木先生も遠慮せずにどうぞ」
 女は三人に揃(そろ)わずとも、二人もいれば十分に姦(かしま)しい。
 食べて、喋(しゃべ)って、また食べてと忙しく、慎太郎(しんたろう)がとっくに相槌(あいづち)を打つのをやめているのに、ずっと喋り続けている。
 無性に甘いものが食べたくなり、がらがらと喧(やかま)しい音を立てる自転車を漕(こ)いで、定禅寺(じょうぜんじ)通りにある老舗(しにせ)のケーキ屋に飛び込んだ。
 苺(いちご)が乗ったショートケーキか、豊富に揃った焼き菓子か。ショーケースに貼り付かんばかりに吟味していると、ふいに二人が入ってきて、なし崩し的に取り囲まれてしまった。
 ぼんやりと窓越しにけやき並木を眺めていると、いきなり「本当にご結婚されていないの?」と聞かれた。
「は? 私の事ですか?」
 聞いてきた篠崎は、早乙女(さおとめ)の担任でもある。
「篠崎先生、そんな失礼な事を聞いちゃ駄目よ。……そうそう。噂(うわさ)によると、鈴木先生は前任校でも生徒にクイズを教えて、強豪校に育てたんですってね」
「麗子」が助け船を出してくれた。
 どんな噂なのか気にはなるが、どうせろくでもない噂だろう。
「クイズ部を創設したのは私ですが、生徒が頑張ってくれたんですよ」
 無難に答えておく。
 だが、二人は感心したように頷(うなず)く。
「まぁ、ご謙遜を」
「ほんと。生徒の活躍を、我が事のように自慢する人に聞かせてやりたいですよね。特にバレー部顧問の佐伯(さえき)先生とか」
「そうよ! 頑張ったのは生徒なのにねー!」
「うちも起ち上げたばかりで、まだどういう方向で活動してゆくか決めかねてるんですよ。ま、今のところは早乙女が中心になって、よくやってくれています」
 担任へのリップサービスも込めて、早乙女を持ち上げておく。

プロフィール

蓮見恭子(はすみ・きょうこ) 1965年大阪府生まれ。2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞。
ミステリーにとどまらずスポーツもの、青春小説や人間ドラマにまで作風を広げ活躍中。
著書に「国際犯罪捜査官・蛭川タニア」シリーズ、『襷を、君に』『襷を我が手に』『シマイチ古道具商―春夏冬(あきない)人情ものがたり―』『はじまりの家』 『MGCマラソンサバイバル』などがある。

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