よみもの・連載

バンチョ高校クイズ研

第六話

蓮見恭子Kyoko Hasumi

「大納言(だいなごん)さん。どうぞ、お入り下さい」
 四人目の面談を終え、最後の保護者を迎え入れた途端、ぷっと噴き出しそうになる。
 どうしても仕事を休めないとかで、保護者からは「母が行きます」と連絡があった。それは別に構わないのだが、二者面談に現れた祖母は顔も体型も孫そっくりで、おまけに赤いベレー帽を被(かぶ)っているので、孫よりもお地蔵さん度が高い。慎太郎(しんたろう)は笑いを堪(こら)えるのに必死だった。
「先生には部活でもお世話になっているようで……」
 お地蔵さんがペコリと頭を下げる。
「いえいえ。ご足労をおかけいたしまして。しかし、大変ですね。お母様によると、これまで保護者会や参観、運動会など全ておばあ様が代わりに参加されていたとか……」
「はい。娘夫婦と同居してるのもあって、保育園の送り迎えから、夕飯やお風呂の世話まで、全部私がやってきました。悟(さとる)は私が育てたようなもんなんですよ」
 ――なるほど、おばあちゃん子か。
「そうですか。では、お母様より悟くんのご様子をよくご存知なのですね。如何(いかが)ですか? お宅でのご様子は」
「よく食べ、よく寝てます。もう少し勉強して欲しいんですけどねぇ」
 今、慎太郎の目の前には、大納言の成績表が開かれている。
「うーむ、一学期の成績では平均点をとっていますし、そう悪くない。このままの調子で頑張って頂けたら良いと思いますよ。他に何か心配な事はありますか?」
「部活では運動部のような事もしているんですよね? うちの悟、あの体でしょ? ついて行けてるのかどうか心配で……」
「あくまで体力作りの為(ため)のトレーニングです。続ける事に意味があるので無理をせず、苦しければ途中で休んでも構わないと指導しています」
「はぁ、なるほど、それで……。悟は最近、食べる量は変わらないのに、体重が少し減ってきて……。今の説明で納得しました」
 慎太郎の目には代わり映えしないように見えたが、ちゃんとダイエットになっていたらしい。
「悟は中学に入ってから急に体重が増えて、中学では三度、制服を買い替え、高校に入る時も特注サイズで誂(あつら)えたんです」
「……なるほど」
「お金はかかるし、幾ら若いからって太り過ぎは体に良くないしで……。でも、食べ盛りでしょう? 食べるのを我慢させるのは可哀想で……。悟がクイズをやるって言い出した時も、ダイエットの為には運動部の方がいいんじゃないかって考えたんですけど、良かったです。あ、それから、夏休み中は活動するんでしょうか? ずっと家にいて、ダラダラされるのも暑苦しいんで」
 一気にまくしたてた後、祖母はハンドタオルで首筋を拭った。
「夏休みの活動については、もちろん、考えています。クイズ大会も夏休みを目がけて集中的に開催されますしね」

プロフィール

蓮見恭子(はすみ・きょうこ) 1965年大阪府生まれ。2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞。
ミステリーにとどまらずスポーツもの、青春小説や人間ドラマにまで作風を広げ活躍中。
著書に「国際犯罪捜査官・蛭川タニア」シリーズ、『襷を、君に』『襷を我が手に』『シマイチ古道具商―春夏冬(あきない)人情ものがたり―』『はじまりの家』 『MGCマラソンサバイバル』などがある。

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