よみもの・連載

トナリの怪談

第一回 怪談一人語り:不動産屋の内見

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 特記事項。
 生活するのが難しいほどの騒音や、危険な薬物を扱う工場が近くにある場合も含まれますが、多くの場合、それは「事故物件」のことを指します。
 その部屋で人が亡くなった場合、どんなにきれいに清掃したとしても次に入居する人はちょっとためらってしまう……そういう物件です。
 紹介してくれた部屋について、その時は詳しい話を聞かなかったのですが、どうやらそこも過去に何かがあったようでした。
 そうなると、普通の人はやっぱりためらうと思います。誰だって、快適に暮らすための家の中で怖い思いはしたくないですから。
 とはいえ僕も、僕の親父もかなり霊感が強い方です。心霊現象には耐性があるし、ある程度なら冷静に受け止めることができるだろう……。そういう考えで一致し、まずは契約前に内見させてもらうことにしました。
「わかりました。でしたら今からご案内します。車を回しますので、どうぞ、こちらへ」
 不動産屋さんは少し心配そうな顔をしつつも、そう提案してくれました。
 せっかくなので、他の候補場所もいくつか見繕ってもらい、僕たち親子は不動産屋さんの運転する車に乗って、入居希望の物件に移動しました。
 一軒目にまず、一番気になっていた事故物件へと向かいます。
 場所は駅から徒歩十五分ほどの場所にある、閑静な住宅地でした。
 そう遠くない場所にスーパーとコンビニがあり、坂を上がった商店街には魚屋さんや八百屋さんもある。
 近くに小学校があるのか、午後の時間帯にはランドセルを背負った子供たちが駆け回っていて、きゃあきゃあと軽やかなはしゃぎ声が聞こえていました。
「すみません、ここには駐車場がないので、私は近くのコインパーキングに停(と)めてきます」
 僕たちを物件の前で降ろし、不動産屋さんが言いました。
「鍵をお渡ししますので、先に内見していてください」
「はい、わかりました」
 三人分のスリッパと鍵を渡され、僕たちは不動産屋さんの言うとおり、先に室内に入ることにしました。
 該当する部屋は二階です。
 ガチャリ。
「……おお」
 ドアを開けた瞬間、思わずそんな声がこぼれました。
 恐怖ではありません。僕が考えていたよりも、ずっといい場所だったからです。
 部屋は事前に見取り図で見たとおり、ゆったりとした2DKでした。
 がらんとした室内は定期的に掃除されているのか、埃(ほこり)やカビの匂いもせず、壁はきれいなクリーム色で、汚れもありません。
 大きな窓からはさんさんと午後の日差しが降り注ぎ、窓を開けると、すがすがしい風が吹き込んできました。ベランダに出ると、のどかな住宅地が一望でき、僕は思わず「わあ」と笑顔になりました。
「いいところじゃない!」
 母も弾んだ声を上げます。
「うん、いいね。こんなにいいところが見つかるなんて、運がよかったね」
「みんな、事故物件というだけで嫌がってたのね、きっと。もったいないわね」
 二人でにこやかに話しながら、僕は親父(おやじ)を探しました。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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