よみもの・連載

トナリの怪談

第一回 怪談一人語り:不動産屋の内見

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 この時、僕たちのいたダイニングではなく、親父はキッチンの方にいて、ゆっくりとあちこちを見回していました。
「ここ、いいところだよね」
 同意を得るつもりで僕が声をかけると、親父はなぜか、形容しがたい顔で振り返りました。
「うーん」
 しかめ面というよりは、困惑しているような、何かに迷っているような……切羽詰まっているわけではないけれど、すっきりしないような、いろんな感情が入り交じったような顔です。
「そうでもない?」
「ううーん……」
「えー、いいと思うけどな」
 どんなに言っても、親父は煮え切らない返事をするばかりです。僕は少し、感動に水を差されたような気持ちになりつつ、何か気になることがあるのか聞こうとしました。
 ……と、その時でした。
「お待たせしました!」
 玄関の方で、はつらつとした声がしました。
 不動産屋さんです。車は無事、駐車場に停められたようで、彼女はニコニコ笑いながら、部屋に入ってきました。
「ここ、いいですよね」
「ええ、そうですね」
 キッチンからダイニングの方へ戻り、僕は不動産屋さんを迎えました。
 僕が好意的な返事をしたからか、不動産屋さんは今にも小躍りしそうなほどはしゃいでいました。そんなに親身になってくれるなんて、いい人です。
「ここ、すごい内装もきれいで、日当たりもよくて、お家賃もものすごく安いんですよ」
「それ、僕たちも思いました」
「ああ、やっぱり! 本当に素晴らしいですよね。私も常々、ここは本当にいい、間違いない、素晴らしいって思ってるんです」
「……?」
 そこで僕はやっと違和感を覚えました。
 確かにこの物件はとてもいい。事故物件とは言え、特に不気味な雰囲気もしないし、室内は明るいし。
 でも……そこまで絶賛されると、少し戸惑ってしまいます。
「ここ以上の物件なんてどこにもありませんよ。もう、ここに決めません?」
「えっ、いや、さすがにまだ一軒目なので、もうちょっと悩みたいと……」
「でもこの物件、早く押さえた方がいいですよ。大人気なんですから。もうここにしましょう。ここに決めた方が絶対いいと思いますよ」
 ぐいぐいと。
 本当にいきなり、ぐいぐいとこられて、僕はますますうろたえました。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

Back number