よみもの・連載

トナリの怪談

第一回 怪談一人語り:不動産屋の内見

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 不動産屋さんは口元ににこやかな笑みを浮かべたまま、瞬きもせずに僕のことを見上げてきます。
 その眼球がなんだか小刻みに、カタカタカタカタッと動いているように見えて、僕は内心、ひやりとしました。
「いや、やっぱりもう何軒か、見て回ってから決めたいなあと」
 僕が一歩下がると、不動産屋さんは一歩前へ近づいてきます。
 僕が下がると、また前へ。
 ……一歩、二歩、三歩。
 僕が下がった分だけ、不動産屋さんは距離を詰めてきました。
「何でですか。絶対ここがいいですって。ここに決めましょう」
「えっと……色々見てから、ここに戻ってくる可能性もありますし、いったん次の物件に……」
「ダメダメ。ダメです、もうダメ。ここにしましょう」
「いや、あの」
「ここにしましょう、それしかないですよ、あなたはぜったいここがいいですよ、ここしかありませんよ、ここにきめないと、はやく。はやくはやくはやくはやくはやくきめて」
 どん、と背中が硬いものにぶつかって、僕は後ろが壁だと気づきました。いつの間にか壁際まで追い詰められていたようでした。
 なぜか、よくわからないのですが、妙に部屋の中が暗くなった気がしました。さっきまであんなに明るかったのに。
「ねえ」
「……っ」
 突然、不動産屋さんが僕の片手をバッと両手でつかんできました。拳全てを両手で包み込むように、しっかりと。
 そしてやっぱり瞬きもせず、僕を見上げて、ニマーッと唇と目を三日月形にして笑いました。

「ここに決めて、今日から私とここで暮らしましょう?」

「え……っ」
 思わず僕は絶句しました。
 ぞわりと背筋に奇妙な感覚が走り、腕にぶわっと鳥肌が立ちます。
 ……これに応えてはいけない。
 直感的にそう思いました。
 肯定も否定も、多分どちらもよくないことになる。
「……」
 一瞬のようにも、ずいぶん長いようにも思える時間がたちました。
 その間、不動産屋さんはずっとニマニマと笑っていて、ねえ、ねえ、と僕を促してきます。
 その手が僕の拳から手首に移動し、ゆっくりと二の腕をつかんできて、さすがにこれはもうダメだ、今すぐ逃げないと、と思った瞬間でした。
「すみません、お待たせしました!」

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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