第二回 怪談一人語り:毎日見る夢
シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草
彼女は僕を見上げて、眼鏡の奥で大きな目を細め、ニコッと笑ってくれました。
「…………」
彼女が続けて何かを言おうとし……そこで僕は夢から覚めました。
その女の子が誰なのか、僕は全然知りません。名前も顔も。
さらに言えば、僕が帰って行った家もまた、全く知らない家でした。
夢の中で自分が、全く知らない道を通り、全く知らない家に帰り、全く知らない「誰か」に迎えられ、「ただいま」と言う。
奇妙な夢です。
……ただ途方もないほどおかしすぎる、とは思いませんでした。
怪獣が大暴れしたり、殺人鬼に追いかけ回されたり、もしくはメジャーリーガーになっていたりする夢に比べたら、普通すぎると言えるでしょう。
当時の僕もあまり気にとめず、その夢のことはすぐに忘れてしまいました。
この日は受講している授業もなかったので、午前中にバイトに行って、昼食を食べて、また別のバイトに行って。
家に帰ってきて、夕食を食べて、少しだらだらして、風呂に入って……いつもと同じようにぐっすりと眠りました。
……その日、僕はまた夢を見ました。
昨日と同じ、赤黒い夕焼けの中、一人で歩いて行く夢です。
辺りの景色も同じで、向かう先もそっくり同じ。
「ただいまー」
ドアを開け家に入りながら言いました。
「お帰りー」
出迎えてくれた女の子がそう返します。そして手を伸ばし、僕から鞄を受け取りました。
「今日は会社、どうだった?」
「いつも通りだったよ」
僕の口が勝手に動き、そんなことを言いました。
この時初めて、僕は自分が鞄を持っていたことや、スーツを着ていたことに気づきます。
そんな鞄もスーツも実際には持っていないのに。
「…………」
そこで夢から覚めました。
起きた時、手足の先が少し冷たくなっていました。普通、寝起きは体温が上がっているものなのに。
アレは……。
今の夢は一体何だったのだろう?
いくら考えても、理由は全くわかりません。
多分、昨日の夢が頭の片隅に引っかかっていて、今日はその続きのような夢を見てしまっただけだ。だってそれ以外、納得のいく理由がないし。
必死で自分にそう言い聞かせました。
そう言い聞かせる以外にできることもなかったのです。何かがおかしいとわかっているのに、どうすることもできないような……。
迷子の時に感じるような、途方に暮れた心細さを振り払うのが精一杯でした。
ですがそれから先、僕は毎日同じ夢を見ることになったのです。
- プロフィール
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シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。
Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78 -
構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001