よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

「あっ、くそ、もったいね」
「ちょっと二人とも」
 後部座席から困ったような声がかかった。
 大きな目をした小柄な友人、人見(ひとみ)がオロオロしながら車内と車外を交互に見ている。
「ゴミ捨てちゃダメだよ。早く拾いに……」
「ゴミじゃないって。中身がちゃんと入ってたのに、阿内のアホが」
「なんで俺ェ!? 人のせいにすんの、やめてもらっていーですかーっ」
「ほんとうるせえ」
 飛んでいってしまったペットボトルの代わりに拳を繰り出すと、阿内が膝蹴りで応戦してきた。
 人通りはなく、車のスピードもゆっくりだが、さすがに少しふざけすぎかもしれない。
 伊庭はまだ心配そうに背後を見ている人見を振り返り、なだめるように軽く手を振った。
「一本くらい平気だって。誰かに怒られたら俺が謝るから」
 とはいえ青々と広がる菜園にはこの日、農作業中の人もいなかった。狭い道路を走る車もないし、道の脇を歩いてくる通行人もいない。
 観光名所ではなく、温泉も特産品もないへんぴな土地だ。昔からの住人以外、訪れる者もいないだろう。
(これなら怒られることなんてないな)
 密かに笑い、伊庭はペットボトルのことを頭の片隅に追いやった。
 そもそも今の自分たちには大事な目的がある。些細(ささい)な件にこだわっている暇はないのだ。
 ――プーン。
 その時、カーナビが軽快な音を鳴らした。
『この先、二百メートル右折です』
 伊庭はちらりとカーナビを見た。画面には確かに右折する曲がり角が見えていたが、目的地は目の前の道をまっすぐ進んだところにある。
「この先、直進しまぁす!」
「イケイケェ!」
 笑いながら曲がり角を通り過ぎた伊庭に、助手席の阿内がはしゃいで拳を突き上げた。
 そもそも、今回の日帰り旅行を提案してきたのがこの阿内だった。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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