よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 *  *  *

「やべーオカルト、仕入れたんだよ。カーナビがめったに出さない指示を出す場所があるんだって!」
 一週間ほど前、文化人類学の講義が始まるのを待っていた伊庭と人見のもとに、阿内が駆け寄ってきた。二人の前の席を確保すると、彼は思わせぶりに声を潜める。
「昨日、バイト先で聞いたんだ。面白そうじゃね?」
「めったに出さない指示って何だよ」
 朝からテンションの高い友人に伊庭は苦笑した。
 知り合ってから二年半ほどたつが、阿内の賑やかさは一向に変わらない。都内の某大学に入学した当時、最初に声をかけてきたのも阿内だったし、一人でぽつんと講義を受けていた人見に声をかけたのも彼だった。
 タイプの違う自分たちが仲良くするきっかけを作ったのも、こうして新しい話題をもたらすのも決まって彼だ。そのおかげで伊庭も退屈しない大学生活が送れている。
(オカルトねえ……)
 暇な大学生の例に漏れず、伊庭もその手の話は結構好きだ。この二年半の間に阿内の誘いに乗り、肝試しや有名なオカルトスポットを巡ったことは数知れない。あいにく不思議な目には一度もあわなかったが。
 今回はどんなネタなのか、伊庭は興味をそそられた。
「カーナビが『バックしてください』って言う場所だよ。怖くね?」
「……は?」
 だが、期待した伊庭は阿内の台詞にいささか拍子抜けした。冗談を言っているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「バックしてください? ……言うだろ、普通に」
「あ? 伊庭、聞いたことあんの」
「いや、ねーけど」
 改めてそう言われると首を振るしかないが、その言葉自体はおかしなものでもないだろう。カーナビが突然「呪います」や「死ね」と言いだしたら大事件だが、後退を促すのはよくあることではないだろうか。
「これ、異常なことなんだってば。人見は聞いたことある?」
「僕もない。……というかそれ、やめておいたほうがいいヤツだよね」
 怯(おび)えたように人見が表情を曇らせた。その反応に伊庭は片眉を上げた。……慎重な人見がこういう反応をするのは、大抵おどろおどろしい逸話があるときだ。
「やめておいたほうがいいってなんだよ」
「直進したほうが早く目的地に着くのに、『右折してください』とか、『この先、百メートル左折です』とかカーナビが言い出すことがあるんだって。それでも指示を無視してると、最後には『バックしてください』って言うらしいんだけど……」
「その道の先が行き止まりで、もう進めない……ってわけじゃなくて?」
「うん、目の前にはまっすぐ道が伸びてるのに、そんな指示が出るって噂」
 人見が青ざめ、身を震わせた。
 自分の聞いた話も同じだったのか、阿内がパチンと指を鳴らす。
「それよ! つまり、何が何でもその先に行くなってことだろ? カーナビにあらかじめ『通っちゃいけない道』が登録されててさ。そこを避けて目的地へのルートを指示してるとしか思えなくね?」
「なるほどねえ」

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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