第三回 〜カーナビ〜
シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草
正直、話を聞くだけではさほど恐ろしいとは思わなかった。今まで阿内が仕入れてきた「夜になると生首が飛び回る墓地」だの、「●時×分に異形が現れる廃屋」だの、聞くだけでゾッとするようなオカルト話に比べたら、地味すぎると言ってもいい。
(でも)
この日の阿内はそれらの話を仕入れてきた時と同じくらい興奮していた。つまり彼の中では、今回の話も「とっておき」なのだろう。
「じゃあ行ってみるか」
軽いノリで伊庭は言った。
「そこ、遠いのか? 日帰りできる距離なら、車出すけど」
「やった! 郊外だけど、車があれば全然行ける」
阿内は目を輝かせ、人見はますます青ざめた。それでも友人二人が乗り気になったとき、彼が誘いを断ることはない。
渋々うなずく人見の背中を叩(たた)いて元気づけ、伊庭たちは翌週の休日に現地に向かうことにしたのだった。
そして当日、
「なんか……さっきまでと雰囲気が違うな」
バサッとフロントガラスにぶつかってきた枝に舌打ちしつつ、伊庭は慎重にハンドルを操作した。
つい先ほどまで、自分たちは気持ちのいい秋晴れの田園風景を車で走っていたはずだ。目的地は阿内が調べていたので行き先をカーナビに登録し、その指示に従ってハンドルを切る。
それがどうだ。
いつしか車は奇妙な村の中を走っていた。
舗装もされていない狭いでこぼこ道が続く中、痩せた街路樹が枝を垂れている。ぽつりぽつりと民家が建っているものの、どの家もドアは固く閉ざされ、窓は曇っていて中の様子はさっぱり見えない。
辺りを通る通行人は一人もおらず、通りに時々落ちているサンダルや汚れた空き瓶がかろうじて、生活感を醸し出しているのみだ。
家の周りを囲む塀には剥がれかけたポスターが貼られているが、それがどうにも違和感を誘う。
妙にレトロというか、古くさいのだ。
髪を結い上げた着物姿の女性が缶を持って笑っているイラストや、いつ上映したのかもわからないほど古い映画のポスター。
そんなものがベタベタと塀に貼られている。
(目的地は……まだまっすぐか)
ちらりとカーナビに目を向ける。
機械が旧式ということもあり、画像はただの平面だ。目印になるような建物は一つもなく、ただ細い道だけが血管のように幾筋も伸びている。
進路を示す矢印は何度も細い小道を指し示したが、伊庭はそれらを全て無視した。
(この先って何があるんだろうな)
今更のように疑問がふと脳裏をよぎる。カーナビの噂を仕入れてきた阿内もそこまでは知らないようだった。
- プロフィール
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シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。
Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78 -
構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001