よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 ……おかしな話だ。カーナビだけを頼りに、どこに着くのかもわからない道をこうして進んでいるなんて。
「……」
 さっきまで賑やかだった車内はいつしか静まりかえっていた。
 伊庭は無意識に強くハンドルを握り、身体をこわばらせていた。周囲の景色を眺める余裕もなく、慎重に視線を周囲に飛ばす。
 なぜか無性に緊張していた。
 手に汗をかいているのか、ハンドルを握る手がべたつく。
 先ほどまでは全然気にならなかったのに、喉の奥で唾液が粘ついた。
 咳が出そうだ。だが音を出すのがためらわれる。呼吸すら「何か」に聞かれたら悪いことが起きそうで……。
「阿内、お茶くれ」
「うっお、びびったあ!」
 嫌な感覚を振り払うように、あえて明るく伊庭が言った瞬間、阿内が飛び上がって悲鳴を上げた。話しかけた伊庭までびくりと身をすくめたが、すぐにそのコミカルさに笑いがこみ上げる。
「はははっ、おま、何だよ!」
 それを機に、ふっと車内の緊張が解けた。
「びびってんじゃねーよ! ザコか、お前!」
 がつ、と軽く阿内の座席の背もたれを殴る。すぐに阿内も応戦してきた。
「いやいや、伊庭ちゃん、ねーわ。急に話しかけんなや。今、口から心臓出たわ!」
「戻せ戻せ。ノミ並みの心臓、早く戻しとけ」
「うっせ、五分の魂舐(な)めんな。どうせなら育毛してから戻すわ。ふさふさにしてから戻すわ」
「おー、ガンバレ、どうせなら鋼製にしちまえ。……人見はどうだ? 新しいお茶、まだあるぞ」
 伊庭はルームミラーに目をやり、後部座席を見た。
 人見は車に酔ったのか、青い顔でうつむいている。
「平気か? この辺、道悪いんだよな。酔ったら休憩するから、遠慮なく言えよ」
「伊庭の運転が下手なんだよなー。運転手サン、もっと安全運転頼むわ〜」
「うるせー客は蹴り出すぞ」
「いやん」
 がつっと片足を伸ばして軽く蹴ると、心得たように阿内も軽く応じてくる。
 いつものやりとりが戻ってきて、伊庭は密かにホッとした。
 ――プーン。
 カーナビが軽快な音を鳴らす。
『この先、三百メートル左折です』
 車を走らせていくと、確かに左折できる路地が見えてくる。
「……」
 少し迷ったが、伊庭は曲がらず、直進した。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

Back number