よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 ドクン、と心臓が嫌な音を立てる。それを自覚するのが嫌で、伊庭はあえて乾いた声で笑った。
「そろそろか〜? つか地図的には、このまま直進したら公道に出るんだけどよ」
「なんだよ、拍子抜け〜」
 阿内は笑ったが、どこかホッとしたような気配が伝わった。
(いや、何をびびってんだ、俺ら)
 こんな場所、ちょっと人気がないだけの廃村ではないか。
 人が住んでいないから少し不気味に見えるだけで、ある意味こういう場所は当時の生活を知るための、貴重な資料になるのではないだろうか。
 誰も知らないような大昔の話ではなく、「今」に続く時代の名残がこの廃村には残っている。
 今では誰もが持っているものが当時は高級品だったり、今では誰もしないことが当時は当たり前のように行われていたり。
 朽ちかけた家の軒先やサンダル、ポスターの一枚に至るまで、文化人類学の教授に見せたら、目を輝かせるかもしれない。
「阿内、写真撮っとくか? 教授に見せたら試験の時、加点してくれるかも」
「おー、確かに。それいいな」
 明るく笑ったものの、阿内はスマホを取りだそうとはしなかった。緊張し、目だけが落ち着きなく、窓の外をキョロキョロと見回している。
 まるで窓から目を離した瞬間、得体の知れない化け物に襲われるとでも思っているような……。
 それに気づいたが、伊庭は阿内をからかう気にはなれなかった。自分も彼と似たようなものだ。
 ――プーン。
『この先、二百メートル右折です』
 再びカーナビから指示が出た。
 伊庭はぐっとハンドルを握りしめた。
 正直、気持ちの上ではもう、その指示に従いたくてたまらなかった。
 指示を無視したのは意地になったからではなく、祈りにも似た心理に近い。
 ……別に何も起きないはず。まっすぐ進んでも、何一つ危険はないはず。このまま進んで、進んで、最後は公道に出て終わるはず。
 そんなことを無意識に、自分自身に言い聞かせていた。
 この先に進んでもきっと、おかしなことは何も起きない。自分たちはちょっと変わった体験をしただけで、このまま何事もなく帰途につく。
 明日になったらまた三人そろって大学に集まり、「何も起きなかったなー」、「まあ日帰り旅行は楽しかったよ」などと雑談を交わしながら、また別の暇つぶしに精を出すのだ。
(そうだ)
 それだけだ。
 ――プーン。
『この先、二百メートル左折です』
 ――プーン。
『この先、三百メートル右折です』
 目的地はまっすぐ先を指しているが、カーナビは何度も何度も迂回ルートを指示してくる。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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