よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 ……そうして、もう何度目かもわからない指示を無視した時のことだった。

『バックしてください』

 突然、カーナビの指示が変わった。
「……」
 三人とも、何も言わなかった。
 ぐっと重い沈黙が車内を満たす。
『バックしてください』
 それでも直進していると、再びカーナビが指示を出した。淡々とした機械音だというのに、どこか切実さを帯びているように感じられる。
 そこでようやく伊庭は気がついた。
(道が)
 一本道だ。
 今までは左右に細い道が伸びていたが、いつの間にかそれがなくなっている。でこぼこした道の両側は土を積み上げた土手のようになっており、後退か前進しか選べない。
 民家は消え、両脇の土手沿いに、奇妙なものがポツポツと立ち始めた。
 盛り土の上に立てた杭(くい)だ。太い杭の上部には細い木片がくくりつけられ、ちょうどそれが十字架のように見える。
 だからだろうか。無意味に見えるその杭が、どこか呪術的なまがまがしさを帯びているように見える。
(なんだ、これ)
 一体何なんだこれ。
 この先には何があるんだ。
 自分たちはどこに行こうとしているんだ。
『バックしてください、バックしてください、バックしてください、バックしてください、バックしてくださいバックしてくださいバックしてくださいバックしてくださいバックしてくださいバックしてくださいバックしてくださいバックしてください』
 カーナビはもうそれしか言わなくなっていた。一メートル進むごとに、延々と退却を促してくる。
「……っ」
 頼むから終わってくれ。カーナビの指示も、この直線の道も。
 今すぐ、何かが起きてくれ。このままではおかしくなりそうだ。
(頼む、から……!)
「あ」
 伊庭が必死で祈り続けていたときだった。間の抜けたような声が真後ろから聞こえた。
 人見だ。
 何かに気づいたように、後部座席にいた人見が声を放った。

「ひと」

 ――ひとが、いるよ。
 それが彼が発した、最後の言葉になった。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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