よみもの・連載

トナリの怪談

第三回 〜カーナビ〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

「……は? なにそれ」
 某大学の食堂で、数人の学生が素っ頓狂な声を上げた。
 会話の中心にいた男子学生が慌てて口元に人差し指を立て、大げさに反応した友人をいさめる。
 彼は我に返ったようにうなずいたものの、興味は消しきれなかったようで身を乗り出した。
「神隠し? それ、伊庭たちが言ったのかよ」
「いや、あいつら、しばらく大学来てねえじゃん。俺の兄貴がジャーナリストなんだよ。ゴシップ雑誌の、だけど」
「どういうこと」
「郊外に『神隠しに遭う村』があるんだってさ。実際、何人かでそこに行くと、帰りには一人消えてるらしい。そういうことがもう何十年も続いてて、都市伝説みたいになってるんだって。兄貴はそれを調べてて、伊庭たちの話を聞いて、事情を聞きに行ったんだって」
「え、じゃあ人見が消えたのって、まさか……」
「まあ確証はないけどさ。あいつら、仲良かったし、旅行先で伊庭と阿内が共謀して人見を殺した……なんて考えにくいだろ。俺はマジで神隠しかもって思うね」
 学生たちの話題はこの一ヶ月、突然大学に来なくなった三人の学友についてのものだった。
 いつも三人でつるんでいた連中がどこかへ日帰り旅行に行き、何かがあり、一人消えた状態で帰ってきた。
 二人ともひどく錯乱しており、まともに話もできなかったという。
『人見が神隠しにあった。全然抜けられない道に迷い込んで、やっと抜け出せたと思ったら、後部座席からあいつが消えていたんだ』
 ジャーナリストの取材に対し、二人は言葉少なにそれだけ話したという。
 とはいえ彼らは行方不明の息子を捜す人見の両親や警察に対しては「三人そろって旅行から帰ってきた。別れた後のことは知らない」の一点張りで通したそうだが。
 伊庭と阿内はよほどショックだったのか、それ以来大学には来ていない。噂では二人とも何かに怯えており、ろくにしゃべることも眠ることも、何かを食べることもできないまま家に引きこもっているそうだ。
「結局何もわからないのかよ。つまんね」
 学生たちは興味を失ったようにため息をつき、肩をすくめる。
 ちょうど文化人類学の教授が講堂に入ってきたこともあり、彼らはのろのろとノートを広げ、教壇に向き直った。
 真面目に何かを学ぼうとする学生以外、大学生活というのは暇なものだ。それこそ刺激を求めて、オカルトじみた噂話に飛びつくくらい。
「……?」
 あくび半分で講義を聴いていた一人がその時、メッセージアプリの通知に気づいた。見れば隣にいる友人がにやりと笑いながら、スマホの画面を指さしている。
 講義中なので私語は慎んだようだが、だからといって真面目に講義を受けるつもりもないようだ。
『カーナビがめったに出さない指示を出す場所がある……って知ってるか?』
 何のことだかわからない。それでも彼は興味を引かれ、友人に返信した。
『何それ。詳しく』

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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