よみもの・連載

トナリの怪談

第五回 〜いつ死ぬの?〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

「う……ううううううっ!」
 その瞬間、突然彼がその場に倒れて、ジタバタ暴れながら苦しみだしました。歯を食いしばって、苦痛でうめく彼の上に、半透明の彼女が馬乗りになります。
『ねえ、いつ死ぬの? ねえ、いつ死ぬの? 早く死んで。ねえ、早く。早く早く早く』
 その右手は彼の身体に埋まったままです。
 心臓だ、と僕は震えながら気づきました。彼女の手は多分、今、彼の心臓をわしづかみにしているのだと。
 彼女はどんなに彼が暴れても、その上で微動だにせず心臓をつかみ続け、「いつ死ぬの?」、「ねえいつ死ぬの?」と延々と問い続けます。そのうち、彼はもう呼吸もできなくなって、けいれんもだんだん弱くなっていって……。
 目の前でそれを見ている僕はもう、彼女が怖いのと、このまま友人が死んでしまうのかという恐怖とで、ぐしゃぐしゃに泣いてしまいました。
 なんとかしたいんですが、僕は幽霊が見えるだけで、触れられるわけではありません。お祓(はら)いができるわけでもないので、できることと言ったら彼女に頼むことだけです。
「お願いします、離れてください。こいつから離れてください」
 必死にそう頼みますが、彼女には僕の声なんて聞こえてなくて、いつ死ぬのかと彼に尋ね続けるばかりでした。
 僕は泣きながら、とにかく必死で救急車を呼んで、後はひたすら彼女に許しを請い続け……そうこうしているうちに救急車がやってきて、彼は病院に運ばれていきました。

 結局彼は一命を取り留めました。
 その日は僕が病院まで付き添い、駆けつけた彼のご両親に色々と説明をしているうちに、あっという間に時間が過ぎました。
 友人の容態は回復しましたが、あの時いきなり苦しみだした原因は結局わからなかったそうです。いくら検査をしても、数値的には異常なし。多分、恋人を失った過労や精神的なショックによるものだろうと医師に言われたようです。
 二日後にはもう彼は退院することができました。そしてその数日後、僕が彼の家に行った時にはもう、彼女の姿は消えていたんです。
 定位置だったベッドの上にも、他の場所にもいません。
 自分のしたことを後悔したのか、彼はこちらに来てくれないと悟ったのか、何か全然違う理由があったのか……。
 僕は彼女のことが悪いとは言いません。怖かったのは確かですが、何から何まで全て彼女が間違っているとは思えないんです。
 彼女はただ、彼の言葉を信じただけです。彼がほんの気休めのように口にした、たった一つの口約束を、彼女は純粋に信じて心待ちにしていたんでしょう。
 本心じゃないなら……本当にそうする覚悟がないなら、決して「命」をかけるような言葉は発しちゃいけない。
 僕はこの時の体験から、強くそう感じるようになりました。

―― 了 ――

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

Back number