よみもの・連載

トナリの怪談

第六回 〜違和感〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 僕の座っていた長い座席のちょうど対角線の先……左側の一番端に「その人」は立っていました。スーツ姿の会社員が多い中、その人も同じようにスーツを着て、よく会社員が持っている平べったい鞄(かばん)を手にしています。
 奇抜な格好をしていたり、特徴があったりすれば別ですが、さすがに高校生の僕にとって、スーツ姿の男性は全員同じ顔に見えます。
 この時も、本来なら違和感を覚えるはずがなかったのですが、なぜか僕は彼が気になりました。
 ――揺れていないんです。
 揺れの激しい車内で、誰も彼もが吊革につかまったり、どこかに背中を預けたりしてバランスを取っているというのに、彼だけはビタッとその場に静止していました。
 ただこの時の僕にとっては、それよりも今、電車がどこを走っているのかを知ることのほうが大事でした。
 他に何か、ここがどこなのかを知るヒントはないかと反対方向に目を向けて……、
「……っ!」
 さっきまで離れたところにいたスーツ姿の男性が、今度は僕の右斜め前にビターッと立っていたんです。
 ……ああ、これ、亡くなってる人だ。
 ここでやっと僕は気づきました。そうかそうか、亡くなっている人が見えちゃってたのか、と。
 幽霊だったら電車の揺れに影響されることもありません。直立不動だったのもうなずけます。
 謎が解けたことで、僕は逆に安心してしまいました。幽霊が見えること自体はよくあることですし、危険な存在はそうそういませんから。
 それよりも僕はあちこちを見回したおかげで、次の駅がちょうど僕の下車駅だとわかったことのほうが重要でした。
 寝過ごしたわけじゃなくてよかった。よし、降りる準備をしよう……。そんなことを考えながら、ふと左隣を見た時でした。
「……っ」
 僕の右斜め前に立っていた幽霊の男性が、今度は僕の左隣に座っていたんです。
 僕は長い座席の一番右側に座っていたので、左側の座席に誰かが座ることはよくあることだったんですが……。
(あ……)
 そこでふと僕はかすかに既視感を覚えました。そういえばこの幽霊の人、ひと月ほど前までは何度か、僕の隣に座っていた気がします。亡くなってからも、こうしてスーツを着て朝から電車に乗っているなんて、よほどそれが彼の生活の「一部」になっていたんでしょうね。
 その人は僕の方は一切見ず、正面をじいっと見ていました。
 座ってからも、立っていた時と同じように微動だにせず、背筋をピンと伸ばして。……で、穏やかな声で「ここだ」って言ったんです。うん、やっぱりここだな、と言うようなくつろいだ声音で。

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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