よみもの・連載

トナリの怪談

第六回 〜違和感〜

シークエンスはやともSequence Hayatomo
構成/樹島千草

 ――ファーン。
 その瞬間、乗っていた地下鉄が駅のホームに滑り込みました。
 ホームの明かりで車内もさらに明るくなります。
 すると隣に座っていた幽霊は消えていて、僕の隣には全然別の人が座っていました。
 その人もスーツ姿の男性で……最近、この車両によく乗ってくる人でした。
 少し横柄で、両足を思い切り広げて座るので、彼が隣に座る時はよく窮屈な思いをしたことを覚えています。
 彼は僕がじっと見ていることに気づいたのか、「ああ?」とすごんできました。
 トラブルになったら嫌だな、と思って、僕は慌てて「すみません」と会釈をして、そそくさと電車を降りたんです。
 ……で、何事もなく、高校に行って、普段どおりに授業を受け、友達と遊んだりして家に帰りました。
 不思議なのはその日以来、両足を目一杯広げて座るサラリーマンを朝の電車で見なくなったことです。
 単に車両を変えたのか、通勤時間を変えただけかもしれません。
 ただ、僕は少し思うんです。
 あの時、僕の目には彼と幽霊の男性が重なったように見えました。まるで、「定位置」の取り合いをしたような感じで……。
 同じ時間帯に、同じ電車の同じ車両に乗る二人のサラリーマン。
 一人は生真面目で、一人は横柄。
 二人はもしかしたら、同じ席を密かに取り合っていたのかもしれません。
 少し前までは生真面目なサラリーマンの定位置だった席に、横柄なサラリーマンが座るようになってしまった。
 でも生真面目な人は席を譲ってほしいだなんて言えるわけもなく……幽霊になってから、やっとそこに座ることができたのかも。
 ここだ、と呟(つぶや)いた時の、男性の満足そうな声が今でも少し耳に残っています。やっとここに座れたぞ。やっぱりここが落ち着くな、と。
 座席争いに負けた横柄なサラリーマンはもうあの電車には乗れなくなってしまったのかもしれません。
 何も確証はないのですが、ふとそんなことを思った一件でした。

―― 了 ――

プロフィール

シークエンスはやとも 吉本所属のピン芸人。自称・心霊第七世代。
幼少期から沢山の心霊体験に遭遇し、それを面白く、時には怖く表現することを芸としている。
TVやYouTubeを軸に活躍中。

Youtubeチャンネル「シークエンスはやともチャンネル?1人で見えるもん。?」 https://www.youtube.com/channel/UCZnndFCPnK1EC2PERlGvwOA
Twitter:@HayaTaka78


構成/樹島千草(きじま・ちぐさ) 牡羊座A型。東京都出身。某大学文学部卒業。甘味とカフェオレと昼寝が好き。
著書に『咎人のシジル』、『虹色デイズ 映画ノベライズ』がある。
Twitterやってます。@chi_kijima1001

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