よみもの・連載

下町やぶさか診療所3

第六章 隔離施設のなかで・後

池永 陽You ikenaga

 こうなったら、もしもの場合は身を投げ出してでも、その場を収めなければと悲壮な思いを自分にいい聞かせながら。

 きたとき同様タクシーに乗りこみ、勝手のわからない名護(なご)の町を麟太郎と麻世は、その空手道場に向かう。
 美咲の話では名護市の中央公園の近辺ということだったのでそこでタクシーを降り、辺りを歩きまわる。
 見つかったのは十五分ほど後だった。
「あった!」
 と麻世が叫ぶような声をあげた。
 麻世の指差すほうを見ると、石垣を巡らせた大きな平屋が建っていて、その玄関口に木製の看板がかけてあった。
 近づいてみると雨風のために薄くはなっていたが、『空手道・真殿流本家』の墨文字がはっきり読めた。
「何だか私の通っている柳剛流の道場と雰囲気が似ている。どう見たって、個人の家のようだし」
 独り言のようにいう麻世に、
「おそらく昔から連綿と受け継がれてきた、この流派の宗家の住まいなんだろうな。だから、麻世の通う道場とここは様子が似ているんじゃねえのか」
 麟太郎も納得したようにいう。
「美咲さんの話では、何でも琉球王朝に伝わっていた技を受け継いでいる、由緒ある流派だということらしいけど」
「それなら安心だ」
 麻世の言葉に、すぐ麟太郎は反応する。
「琉球王朝がらみなら、いくら何でも無法な荒事にはならねえだろ。いや、よかった。安心した」
 ほっとしたような表情を浮べる麟太郎を促し、麻世が先に立って古い門をくぐる。踏石が真直(まっす)ぐ並んでいてその正面にはこの家の玄関があったが、途中から踏石は枝分れして裏手につづいていた。
「多分、こっちだと思う」
 といって麻世は躊躇(ちゅうちょ)なく枝分れした踏石を選んで裏手に進んだ。むろん、麟太郎もその後につづく。
 古びた道場があった。
 引戸はなく、正面には目隠しのように何かの葉で編んだような衝立(ついたて)があった。なかからは威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

プロフィール

池永 陽(いけなが よう) 1950年愛知県豊橋市生まれ。グラフィックデザイナーを経て、コピーライターとして活躍。
98年「走るジイサン」で第11回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。2006年、『雲を斬る』で第12回中山義秀文学賞を受賞する。著書に『ひらひら』などがある。

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