第五章 宿敵邂逅(しゅくてきかいこう)
海道龍一朗Ryuichiro Kaitou
四天王と呼ばれた重臣のうち、唯一残った原虎胤(とらたね)が侍大将筆頭及び先陣大将筆頭の役を務める。この鬼美濃(おにみの)が推挙した飯富(おぶ)虎昌(とらまさ)が新たな先陣大将に抜擢(ばってき)された。
足軽大将筆頭には古参の室住(むろずみ)虎光(とらみつ)、その輔翼に横田(よこた)高松(たかとし)。真田(さなだ)幸綱(ゆきつな)や山本(やまもと)菅助(かんすけ)らが新たな足軽大将として加わった。
そして、物見奉行及び軍目付役に跡部(あとべ)信秋(のぶあき)が任命された。
こうした面々に加え、馬場(ばば)信房(のぶふさ/教来石〈きょうらいし〉景政〈かげまさ〉)をはじめとする近習たちの多くも侍大将に昇格している。
同じように、工藤(くどう)昌祐(まさすけ)ら使番(つかいばん)の者たちも脇大将として列席を許された。
確かに評定衆の顔ぶれは若返ったが、その分、以前の重厚さはなくなっていた。
そして、初めて評定に参加した若衆たちの顔は白(しら)ばみ、一様に緊張で強ばっている。
「御屋形(おやかた)様、一寸(ちと)よろしかろうか」
原虎胤が手を挙げる。
「鬼美濃、何であるか」
「若い者どもが、今にも卒倒しそうな青菜面(あおなづら)になっておる。いつ己に御鉢が廻ってくるのかと怯(おび)えきっているゆえ、これでは評定になりませぬ。まずは跡部の見立てでも聞いた方がよろしいのではありませぬか」
「なるほど。敵勢への諜知(ちょうち)を含めた見立てか」
晴信が頷(うなず)く。
「さようにござりまする。それを聞いた後に、御屋形様が片端から名指しなされて、一人残らず己の考えを具申させればよろしい。それならばまあ、誰が何を申しても大して顰蹙(ひんしゅく)もかわず、評定の場にも慣れていくのでは。儂(わし)としては、最初に真田の意見が聞いてみとうござるが」
原虎胤は新たに足軽大将に抜擢された真田幸綱の方を見る。
「ああ、先に言うておくが、これは新参への嫌がらせなどではないぞ。儂の本心だ。だから、そなたの見立てを最初に聞いてみたいのだ、真田よ」
「……光栄にござりまする、美濃守(みののかみ)殿。御屋形様もお望みならば、仰せのままに」
真田幸綱は落ち着いた表情で答えた。
「後ほど聞かせてもらおう。鬼美濃が申す通り、皆が口を噤(つぐ)んでいたのでは評定にならぬ。ひとつ、そのやり方で進めてみよう。では伊賀守(いがのかみ)、そなたから頼む」
晴信は跡部信秋に発言を促す。
- プロフィール
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海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう) 1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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