「それがしも同じ気持ち。何がなんでも相備（あいぞなえ）であった備前殿のために雪辱を果たしとうござりまする」
「小笠原を松本平から追い出した今こそが好機と存じまする。御屋形様、勝弦峠であの者どもを奇襲し、完膚なきまでに叩きのめした褒美を、われらにいただけませぬか」
　室住虎定が熱をこめて言った。
「それが砥石城の急襲か？」
　晴信は微かに眉をひそめる。
「さようにござりまする。前回は少々、構えを大きくしすぎました。こたびは村上の隙を突き、砥石城だけを狙いまする。それならば、われらの足軽隊だけで事足りるのではありませぬか。どうせ、あの砥石の如く滑る追手道（おうてみち）の急坂は、騎馬で上れませぬ。われら足軽隊でなければ、あの城は落とせぬと存じまする」
　室住虎定の言葉に、晴信は小さく頷いた。
「確かに、そなたの申す通りだが……」
「御屋形様の御出陣には及びませぬ。われらに御下知なされ、軍配をお与えくださるだけで結構。どうか、一生のお願いにござりまする」
　畳に額を擦りつけ、室住虎定が平伏する。
　横田高松もそれに倣った。
「そなたらの気持ちはよくわかった。頭を上げてくれ。すぐに出陣とはまいらぬが、小県と村上義清の様子を探ってみよう。砥石城攻めとなれば、先陣は必ずそなたらに任せる」
「有り難き仕合わせにござりまする」
　二人は声を揃えて再び頭を下げた。
　この直訴があってから、晴信は跡部信秋に小県と坂木の様子を探らせる。ちょうど葛尾城に逃げた小笠原長親の動向も気になっていたからだ。
　すると、面白い事実が浮かび上がってきた。
　村上義清が北信濃の中野郷（なかのごう）を本拠とする高梨政頼と反目し、善光寺平（ぜんこうじだいら）で戦を構えているというのである。義清が本城を留守にしていることを好機と捉え、晴信はすぐに小県へ攻め入る決意をした。
　そして、それを室住虎定と横田高松に伝え、出陣の支度を急がせた。
　すると、今度は原虎胤が晴信の下を訪れ、出陣を願う。
「豊後殿と備中が砥石城攻めの先陣となるならば、それがしを後詰（ごづめ）に置いてくだされ。あの者らと気持ちはひとつゆえ」