連載
ごめん。
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん 加藤 元 Gen Kato

「そのとおり」
 佑理は、たこ焼きを頬張りながら、白い犬に話している。
「わたしは、はぐれ者になりました」
「ハグレモノニナリマシタ」
「いつだって、基本はひとりでいたい。ひとりになりたい」
「ヒトリニナリタイ」
「でもね」
 佑理は口ごもる。たこ焼きを呑み込む。
「話がしたい。誰かと」
 不思議だ。ひとりになりたい。心から思いつつ、誰かを求めている。自分は矛盾している。
 いや、もしかしたら、自分が求めているのは、ひとりになることではなく、わかり合える仲間なのかもしれない。
 仲間って、友だちのこと?
「友だちはいるよ」
 佑理は呟く。

 兄に言わせれば、変で暗い。そんな佑理と仲良くなるのは、変わり者ばかりだった。
 高校生のとき親しくなった雛子(ひなこ)は、同級の女子の大半がアイドル歌手のグループに熱を上げているさなか、古典落語にどっぷりはまっていた。
「八代目桂文楽がクラシックだとしたら、志ん生はパンクロックなわけよ」
「シャーロック・ホームズシリーズも好きだけど、わたしとしてはブラウン神父の方に愛着があるの」
「文楽と志ん生の『寝床』、聴いてみなよ。もとは同じ噺(はなし)だなんて信じられないからね」
「ブラウン神父ものの魅力はけっきょく作者チェスタトンの吐く警句なんだよね」
「志ん生、馬生、志ん朝。美濃部親子はみんな違ってみんな素晴らしい、奇跡の一家だよ」
「ブラウン神父はトリックの説得力が文章上の表現にかかっていて、映像化不可能なところがまた魅力なんだよなあ」
 お互いに話はまったくかみ合わないのだが、雛子と会話するのは楽しかった。好き、という一点に関しては共通だからだ。だから、いつまでもいつまでも熱く語ってやまなかった。
 当然、クラスからは、浮いていた。
「あの子たち、気味が悪い」
「眼は合わせない方がいいよ。異常が伝染(うつ)る」
 聞こえよがしに囁かれるのはしょっちゅうだった。「好き」が大多数とずれた雛子や自分は、彼らから見下される存在であるらしい。
 むろん、愉快ではない。だが、どうしようもない。
「今度の日曜日、暇?」
 雛子に訊かれる。
「暇と言えば暇だし、暇じゃないと言えば暇じゃない」
 予定はない。が、読みたい本があるので、こういう返事になる。
「つき合わない?」
「どこへ?」
「美濃部家のお墓詣り」
 よく晴れた秋の一日、佑理は知りもしない落語家の墓参につき合った。ひとりで本を読むのもいいが、友だちの「好き」に連れ添いたい気分が勝ったのだ。
 そうだ。ひとり好きな佑理にだって、友情はある。

「うん、雛子は仲間だ」
「ヒナコハナカマダ」
「でも、いて欲しいとき、傍にいられるわけじゃない」



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〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん