連載
ごめん。
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん 加藤 元 Gen Kato

「杉田課長と合わなくて、岩舘さんは辞めたんです。わたしもときどき辞めたくなる」
 ぶうん。
 里村くんと佑理のあいだを、大きな蜂が通っていく。
「でかいな」
 里村くんが身をそらす。
「どこから入ったのかな」
「おれについて来たのかもしれない。吉本さん」
「はい?」
「スズメバチハンター、どうですか」
 佑理は呆気にとられた。
「へ?」
「防護服を着て、スズメバチの巣を退治する仕事。どう思います?」
「どうって」佑理は言葉に詰まる。「かなり危険ですよね」
「防護服を着れば大丈夫ですよ」
 里村くんは真顔だった。
「仕事を辞めたら、やってみたいなあ、スズメバチハンター」
 ぶうん。
 倉庫の中を、蜂が飛びまわっている。音だけがしている。

「ただいま」
 白い犬に、佑理は囁く。
「里村くんって、変なひとだ」
「ヘンナヒトダ」
 でも、わたしも変だから。
「いいのかも」
「イイノカモ」

 その日から、佑理は、里村くんと親しくなっていった。



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〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん