連載
ごめん。
第二話 いつだって俺から、ごめん 加藤 元 Gen Kato

「もっとも、嫁さんは実のおかあさんとはいろいろもつれているみたいですが、うちのおふくろとは気が合ったようですね。おふくろはからっとした根のない性格だし、うちの嫁さんは妹型。齢上の女性には逆らわない性格なんでしょう」
「でも、杉田さんには逆らう」
「そうです。亭主にはばんばん歯向かう」
 俺はそのたびごめんごめんとぺこぺこ謝っている。やさしい夫じゃないか。なにが不満なんだ。
「奥さんは、逆らわない性格なのではなくて、普段から辛抱しているだけなんじゃないですか」
「辛抱なんかしていませんよ。俺には文句ばかり言ってくる」
「けれど、義理のおかあさんには、文句は言えませんからね」
「うちはうまく行っていますよ。おふくろは、月に二度はうちに遊びに来て、泊まっていくんです」
 今さら離婚することはあるまいが、七十歳を過ぎた両親の仲は良好とはいえない。おとうさんと顔を突き合わせているのはうんざりするのよ、というのが母親の口癖だった。だから、敬二郎の家に顔を出す以外にも、友だちと温泉で一泊だの、日帰り京都旅行だの、母親はしょっちゅう遊びまわっている。
「月に、二度?」
 敬二郎の顔を、井上はまじまじと見返していた。
「三度来ることもあります」
 父親と険悪になると、いきなり来るのだ。さすがにそこまでは井上には言えなかった。井上は、大きくかぶりを振って、呟いた。
「気の毒に」
「はい?」

 気の毒? 
 誰が。
 俺か? それともおふくろにつれなくされている親父か?



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〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん