連載
ごめん。
第二話 いつだって俺から、ごめん 加藤 元 Gen Kato

「でも、子供たちの世話をするのは私でしょう? 外食のとき、あの子たちがどんなにはしゃぎまわるか、わかるでしょう。声を枯らすほど叱って、いっときも眼が離せない。たった数時間でも神経がへとへとになる。あなただって知っているじゃない」
「俺があいつらを見ているよ。それでいいんだろう」
「あなたはお酒を飲みだして、子供たちを放置するだけよ」
「ふだんはそうかもしれないが、おまえの誕生日くらいは面倒をみる」
「今まではどうだった?」
 敬二郎はぐっと詰まった。
「……今年からは、ちゃんとみるつもりだった」
 初穂は唇を歪めた。「そう?」
「信じないのはおまえの勝手だが、俺はあくまでおまえのためを思っていた。善意を悪くとられちゃたまらない」
「つまり、悪いのは私ということね」
「そうは言っていない」
「言っているんでしょう? 私が悪いなら悪いでけっこうよ。悪いついでに言うわ。お義母さんがちょくちょく家に来るのも、私としてはつらかった」
「なに?」
 敬二郎は唖然とした。
「おふくろとは仲良くやっていたじゃないか」
「うまくやろう、気に入られようと必死になって、努力をして、気を遣って、それでようやく仲良くやっていたのよ」
「おふくろは意地悪か」
 初穂は小さく首を横に振った。
「いいえ。意地悪ではない。いいひとだと思うわ」
「だったら不満はないはずだろう」
「不満はなくても、気を遣うのは疲れるの」
「つまり、我慢をしていた。不満だということじゃないか」
 敬二郎の声がつい荒くなった。
「おふくろが気に入らないなら、もっとはやく言えばよかったんだ。わかったよ。これから先、おふくろは家に来させない。おまえが厭がっているときっちり伝えるよ。それでいいんだろう? 文句はないな」
 店内に、沈黙が落ちた。
 初穂は敬二郎を見返していた。
「わかってはくれないのね」
 ぽつん、と言った。
「やっぱり、わかってはもらえないんだ」
 ほとばしった感情が、急速に冷めていく。敬二郎はいささか不安になって来た。
 おかしい。いつもと違う。なにか様子がおかしい。そうだ、ここは謝っておけ。謝るしかない。



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〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん