連載
ごめん。
第十一話 十四と四十 加藤 元 Gen Kato

 その実、親のふところ事情を慮(おもんぱか)ったのは口先ばかり。その公立校を選んだのは、好きだった同級生の女の子がその学校を受験するのを知ったからだ。
 恭介が首を傾げた。
「野球部のときとパターンが似ていない?」
 似ている、というか、まるきり同じと言っていい。
「おじさんの生き方は、一貫しているんだね」
 そうとも言える。
「成績はどうだった」
 良い方だった。全体で五十番を下ったことはない。
「本当?」
 恭介は眼をまるくした。
「すごい」
 入学したのち、最初の中間試験の成績が、思いのほかよかった。総合点がクラスで三番。生まれてはじめてのことだった。やればできるじゃないの、と母親も大いに感心してくれたものだった。
 嬉しかった。教師からもあたたかい言葉をかけられた。そんなことも、今までになかった。それから真面目に勉強をするようになった。
 咲枝だけは、「まわりのレベルが低かったんじゃないの」と正しく冷静な分析をしていたが、母親はにこにこしてくれていたし、気分がいいものはいい。
 仲のいい友だちもできた。好きな女の子もできた。
「受験のとき、好きだったっていう子?」
「違う子だ」
「気が変わりやすいんだね」
 そうだ。思えばあのころから、性格自体は変わっていない。
「将来の夢はあった?」
 あった。
「どんな?」

 どんな?
 そうだ、俺は、あのころ、猛烈に憧れていたんだ。

「俺は、大人になりたかったよ」
 慎次が言うと、恭介の顔に幾度目かの落胆が浮かんだ。
「誰だって、なるよ。現におじさんは大人じゃないか」
「そうか?」
「大人じゃなきゃ、何なの」
 何なんだろう、と慎次は思う。
 小学生のころ? 中学くらいのときから? はっきりとは思い出せない。しかし、慎次はずっと、大人という存在になりたかった。大人になる。そのこと自体が夢だった。
 おじさんは大人じゃないか。
 そうかな。本当に、大人になれたのだろうか。



 
〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第十三話 しゃぼん玉(最終回)
第十二話 ハッピーエンド
第十一話 十四と四十
第十話 小言幸兵衛
第九話 うさぎが転んだ
第八話 ごめんじゃすまない
第七話 ナニサマ
第六話 電話家族
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん