連載
ごめん。
第十一話 十四と四十 加藤 元 Gen Kato

「迷惑だよ、あんな子供」
 咲枝の口が、あんただってついこのあいだまで、と動きかけるのを遮って、慎次は言った。
「俺も、子供のとき、この店で騒いだことがある」
 咲枝は、あら、と眼を見張った。
「覚えているの?」
 実際は、記憶にはない。ただ、そんな気がするだけだ。しかし、さっきも咲枝がそのような発言をしたばかりだし、こうも言っていた。
 変わらないわねえ、あんたは。
 だから、慎次は大きく頷いて、言った。
「誰かに激突したこともあるんだろう。そのお返しが来たんだな」
 厨房から、醤油の香りが濃く漂って来た。

 ――おじさんは、大人じゃないか。

 食事を終えて、店を出たのち。
 駅への道を歩きながら、恭介が言った。
「さっきの話の続きだけど、おじさんと同じなんだ」
「同じ?」
「俺も、大人になりたいと思っている」
 慎次は胸が詰まった。「そうか」
「だから、なるようになるって言われて、凄(すご)く厭だった。そういう考え方がいちばん嫌いなんだ」
「悪かった」
 慎次は、神妙に言った。
「ごめん」
「謝ることじゃないよ」
 恭介は、びっくりしたように慎次を見返した。
「俺、言い過ぎた?」
「いいや、おまえの言うとおりだよ」
 慎次自身だって、そうだった。そのはずだった。いつからか、潔癖さを押し殺して生きることに慣れていた。大人のふりをして、いかにも大人のような、つまらないことしか言えなくなっていた。
 そして、この先もずっと、大人のふりを続けるだけだ。
 だから、ごめん、恭介。

 ――大人じゃなきゃ、何なの?

 ごめん、十四歳の俺。



 
〈プロフィール〉
加藤元(かとう・げん)
1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『日蔭旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。
Back number
第十三話 しゃぼん玉(最終回)
第十二話 ハッピーエンド
第十一話 十四と四十
第十話 小言幸兵衛
第九話 うさぎが転んだ
第八話 ごめんじゃすまない
第七話 ナニサマ
第六話 電話家族
第五話 かすがい
第四話 悪い妻で、ごめんなさい
第三話 ごめんね、ママ
第二話 いつだって俺から、ごめん
第一話 ふつうじゃなくて、ごめん