よみもの・連載

本日はどうされました?

第二章 梅田登季子(うめだときこ)の話

加藤 元Gen Kato

「電源を入れたり切ったりはできるんですけど、向きとか強さの調節はだいぶ前からできないんです」
「さっきは消すこともできなかったわよ」
「そうですか」
 あたしもさすがに腹が立ってきた。そうですか、じゃないだろう。
「でも、今みたいにすれば大丈夫です」
 大丈夫じゃないよ。修理してよ。
「涼しくはなりますから、これで辛抱してくださいね」
 淡々と言って、彼女は病室を出ていった。まったく、取りつく島もない感じ。朝になるのを待って、あたしは啓太郎に電話した。
「本当に評判がいいの、この病院?」
 思わず訊いちゃったの。壊れたエアコン、応答のないナースコール、看護師さんのあの態度。立て続けに食らっちゃうとね、訊かずにはいられなかった。
「実は違うんだ」
 あきれたことに、啓太郎はあっさり答えた。
「評判がいいのはE病院じゃなく、M病院ってところだった」
 あたしは絶句した。
「かあさんが入院したあとでちゃんと調べてみたら、E病院は患者への対応はあまりよろしくないみたいだね」
 よろしくないって、あんた。
「あたしが入院するときも、しっかり調べたと言っていなかった?」
「ごめん。あれはさ、おれじゃなくて田村が調べてくれたんだよね」
 啓太郎はさすがにいくぶん気まずそうだった。
「田村はM病院がおすすめだって教えてくれたんだけど、おれがうっかり聞き間違えたらしい」
 この馬鹿息子、聞き間違えたで済む話か。
「田村によると、E病院はやばいからよせと言ったらしい。何でも、そいつに当たると入院患者がよく死ぬという、悪魔の看護師がいるんだって」
 悪魔。あたしは思わず頭を振った。四十歳にもなって、シューベルトがまだ抜けていないのか、おまえは。
「おれ、やばいところにかあさんを連れていっちゃったんだな」
「親孝行だこと」
 あたしは低い声で言った。
「困るよね、かあさん」
 啓太郎はいくぶん急(せ)くような調子で訊いた。
「どうする?」
「知るか」
 あたしは荒っぽく電話を切ってやった。
 こうなったら、とっととよくなってここを出るしかない。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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