よみもの・連載

本日はどうされました?

第四章 稲本亜須香(いなもとあすか)の話

加藤 元Gen Kato

    一

 まなちゃんの、幼かったころの話を聞きたいんですか? どうしてです? 
 はい。O病院で起こった患者の連続不審死事件は、TVのニュースで見ました。でも、同じようなことがE病院でも起きていた、というのは、記者さんの今のお話ではじめて知りました。まだ疑惑の段階で、記者さんの所属する週刊誌でしか取り上げていない? だったら知らなくてもしょうがなかったかな。あたし、週刊誌ってあまり読まないですからね。
 で、そのE病院の事件、まなちゃんに関係があるというんですか?
 あるかどうかを調べている? ふうん。週刊誌の記者さんって、警察や探偵みたいなこともしなくちゃいけないんだ。そのうえ、せっかく苦労して調べ上げても、その記事が必ずしも誌面に載るとは限らない? そうですよね。みなが必要な情報とは限りませんものね。
 残念ですけど、あたしだって、お役に立てないと思います。きっとボツになりますよ。
 まなちゃんとは、ずいぶん会っていません。十年以上です。まなちゃんは同窓会にも来たことがないですからね。ご両親の住んでいる家から出てしまったのか、そもそもご両親が今も同じ家に住んでいるかどうかも、あたしは知りません。お互いの住まいは、歩いてたった二十分の距離だけれど、このごろでは通勤に使っているJ駅と家との往復ばかりで、あのあたりには足を向けないんです。
 あたしの話を聞いて、なにがわかるのか、よくわからないですけど、話せというなら話しますよ。
 はじめてまなちゃんと会ったのは、小学校四年生になった春のことでした。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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