よみもの・連載

本日はどうされました?

第六章 蓮沼佳澄(はすぬまかすみ)の話

加藤 元Gen Kato

    一

 週刊誌の取材、ですか?
 あの事件に関することなら、私の方が訊(き)きたいくらいですよ。いったいどうなっているんでしょうか。
 このあいだ、病院に刑事さんがふたり来て、いろいろ話を訊かれました。任意捜査っていうんですか。私はちょうど夜勤明けだったんですけどね。女の刑事さんと男の刑事さんでした。去年の夏、患者さんが続けて亡くなったときの状況について、知っていることを話してほしいと言われました。もちろん私だけじゃなく、内科病棟の看護師たち全員に訊いたんです。医師(せんせい)たちも呼ばれていました。私、二十分くらいは話をしたのかな。質問をして来たのはたいがい女の刑事さんの方でした。うちの主任と同じくらいの年格好で、言われなければ刑事さんにはとても見えない、学校の先生みたいな雰囲気の女性でしたよ。男の刑事さんは、おじさんよりおじいさんといった方がいい感じ。ふんふん頷(うなず)いてはいたけれど、あまり熱心に話を聞いている感じじゃなかった。無理もないと思いますけどね。だって、警察のひとたちが知りたいようなこと、私はまったく言えなかったんですから。話せることなんかなにもなかったんです。少なくとも私はね。
 あのとき亡くなられた二人の患者さんの死因について、私個人としてはまったく疑うところはないんです。容態の急変はあったにせよ、想定外と言うほどではなかった。誰かに危害を加えられたなんて、思いもよりません。
 そのように話したら、訊かれたんです。はい、藤井(ふじい)さんのことをね。疑われているのは、彼女でした。
 藤井さんが、患者さんたちを故意に死なせたんじゃないか。
 インターネット上にそんな書き込みがあったとか、警察に密告があったらしいということは、あとから知りました。ええ、あとで、同じように質問された看護師仲間に聞いたんです。
 菊村(きくむら)さん、ご存じなんですか? 
 ああ、彼女にも取材をなさったんですね。
 そうです。菊村さんが言っていたんです。それで、わざわざ警察が動いたんだって。でも、亡くなり方に不自然な点があるならば、すぐに警察へ届け出ているはずですよ。少なくとも医師たちは病死と診断されたわけですし、病院に残っているのはそれが記載されたカルテだけです。亡くなられた患者さんが殺されたという物的な証拠を見つけるのは難しいでしょうね。
 どうなったんですか、けっきょく。
 あれは、事件だったんですか? 事件と言えるんですか?
 菊村さんなんかは、根拠がなければ警察が動くはずはないって、すっかり藤井さんを犯人と決め込んじゃっているみたいなんですよ。でもね、私はそんな風には考えられないんですよね。ほら、O病院の事件があったから、念のため裏づけをとってみた。その程度の話なんじゃないですか。
 だって、私から見て、藤井さんはちっとも犯罪者じゃないんですもの。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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