よみもの・連載

本日はどうされました?

第六章 蓮沼佳澄(はすぬまかすみ)の話

加藤 元Gen Kato

「あのばあさん、点滴を抜くとき、ばっちり痛がらせてやった」
 なんて平然と話していましたからね。年配の女性によそよそしく対応しておいて、若い女の子の患者にはわざと友だちみたいに話しかけたりして。
「たっぷり疎外感を味わわせてやった。寂しかったろうな、おばさん」
 って、はっきり言っていましたよ。それも、いかにも嬉(うれ)しそうにね。
「あの病室、やっぱりクーラーが効きすぎて寒かったって。知らん顔ですっとぼけておいた」
「ナースコール、あのばばあの病室? わたしは聞いていないからね。あとで藤井さんに行かせとけばいい」
 私、彼女たちと親しくしているときも、あの態度にはついていけなかった。
 患者さんに対して、そんなことをした理由? 私にはわかりません。ただ、彼女たちは常に誰かしらを眼の敵にして、笑いものにしていないと気が済まなかった。自分たちにとって癇(かん)に障るそのひとが気分を害したり、傷ついたりするのが楽しかったんじゃないですか。
 そういうこと、やめましょうよって、言ったことはあるんです。患者さんをいたぶって面白がるなんて、どう考えても異常じゃないですか。
「いたぶってなんかいないよ」
 薄ら笑いを浮かべるばかりで、まったく取り合ってくれませんでしたね。
「患者さん、みんな可愛いもの」

 私のネックレスのときだって、同じだったんでしょう。

     *

 そう。
 つき合っている男性から、クリスマスにプレゼントされた、プラチナのネックレスです。そんなに高価な品じゃありません。彼氏、前の会社でいろいろあって、精神的に追いつめられちゃって退職して、一年近くぶらぶらしたあとで、ようやく新しい会社に就職したばかりでした。あんまりお金に余裕がなかったですからね。
 その朝、ロッカールームで、萩野さんから言われたんです。
「今日はいいのをつけているね」
 萩野さんは目敏(めざと)いんです。すると、菊村さんがすぐさま参加して来る。
「彼氏からの贈り物?」
 来た、と思いました。どうせ冷やかされるだろうとは思っていたんです。わかっていてつけて来たんだから、私もいい気になっていたんですね。言いわけをするようですが、彼氏とはつき合いはじめて間もなくで、プレゼントをしてくれたのも、それがはじめてだったんですよ。なにせ今言ったような事情で、恋愛どころじゃない男をずっと友だち状態で待ち続けていて、ようやっと恋人になれたところだったんです。舞い上がっていた時期でした。あんまり嬉しかったので、身につけずにはいられなかったんです。要は自慢したかったんですよ。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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