よみもの・連載

本日はどうされました?

第六章 蓮沼佳澄(はすぬまかすみ)の話

加藤 元Gen Kato

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 気のせい?
 ネックレスを盗まれた、あのあとから、私は少しずつ、菊村さんとは距離を置くようになっていました。そして、電話の事件を聞いて、萩野さんの時計に気づいてからは、萩野さんともそれまでどおりには話せなくなっていきました。
 誰が犯人なの?
 わかりません。でも、藤井さんがやったと信じるよりは、外部から窃盗犯が入り込んだと考えた方が、まだ可能性がありそうな気がします。
 萩野さんは、本当に時計を盗まれたのでしょうか?
 菊村さんの電話にいやがらせをしたのは、同じ犯人なのでしょうか?

     *

 それから、杉内(すぎうち)主任のチョコレートの件がありましたね。
「棄てるなんて、ひどい。私のときと同じだよ。きっと同じ犯人だ」
 菊村さんが大騒ぎをしていました。
 ペットボトルの中のスポーツドリンクのにおいがおかしい、と言ったのは、萩野さんでした。
「台所用洗剤みたいなにおいだった。飲もうとしたところで気づいたからよかったけれど、うっかり飲んだら体調を悪くしたかもしれないね」
 私は、それを耳にして、すぐに自分のお茶を棄てました。萩野さんの言葉が本当にしろ、そうではないにしろ、ぜったいに自分の飲みものにはなにかが、台所用洗剤が入れられているに違いない、と思えたからです。
 誰かが、確実に、他人を傷つけようとしている。理由はわからない。ただ、誰かに危害を加えようという目的で、動いている。
 気のせい?

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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