よみもの・連載

本日はどうされました?

第七章 市井洋子(いちいようこ)の話

加藤 元Gen Kato

     一

 はい、そうです。私が、まなの母親の洋子です。
 週刊誌の記者の方? まなとは取材を通じたお知り合いだという話ですが、私の職場もまなから聞いて来られたんですか。それで、わざわざ訊(き)きたいというのは、どんなことなんでしょう。
 まなについての話を訊きたい。それも、まなには内密にして欲しい? あの、まなが、なにかしたんですか?
 え、まなが働いている病院で患者さんの変死が相次いだ、ですって? 
 いいえ、まなはそんなこと、私には少しも教えてはくれませんでした。それに、だって、病院でしょう。病院なんですから、亡くなる方があったって、当たり前ですよね。まさか、まながそのことに関わりがあるとおっしゃるんですか? そんな、そんなはずはありません。
 大丈夫? 大丈夫ですよ、私は、落ち着いています。冷静です。
 警察が調べて、事件性はないということで捜査は終了しそう? だったら、まなには関係がないんですね。よかった。
 大丈夫です。ちょっと驚いただけです。だって、週刊誌の記者の方にお会いするなんて、はじめてですし、変死なんておっしゃるから、動揺しちゃったんです。一瞬のうちに、悪いことばかり想像してしまった。TVのニュースで観るような、恐ろしい事件。自分の周囲に起こって欲しくない、厭(いや)な事件。
 まなには関係ない。そうですとも。
 でも、だったら、あなたはわざわざ、私になにを訊きにいらしたんです?

     *

 いいえ、まなからは、なにも聞いていません。まなからは最近、連絡もほとんどないのです。
 ここしばらく、あの子は私には会いに来ません。もう一年半は会っていないのではないかしら。
 理由? それは、たぶん、忙しいせいでしょう。正月は休めない、お盆の時期もゴールデンウィークもない。まとまったお休みは取れない。まなからはそう聞いていますよ。
 私から連絡? していません。なぜって、悪い気がしますしね。せっかくお休みの時間が取れたなら、なにも私に会うことはない。お友だちや恋人と過ごした方がいいに決まっています。
 変ですか?
 でも、記者さんならおわかりじゃないかしら。私とまなの間柄は、多少はご存じのうえで連絡をくださったんでしょう?

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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