よみもの・連載

本日はどうされました?

第七章 市井洋子(いちいようこ)の話

加藤 元Gen Kato

     *

 姑にも言われました。
「子供は乱暴だものね。俊之(としゆき)に似ているのよ。あの子、小さいころは乱暴で、自分のおもちゃだけじゃなく、ゆかりのお人形まで投げたり踏んだりして壊してしまっていた。それでゆかりと取っ組み合いの喧嘩をしてねえ」
 まなについて相談しているはずなのに、姑はすぐ昔話を持ち出してうやむやにしてしまうのです。
 違うんだ。そういうことじゃない。まなの乱暴は、そういうのとは違う。
 近所の公園へ遊びに行っても、私もまなも、ほかの母子のグループには入れなかったのです。最初のうちは問題なく過ごしていたんです。でも、まながもめごとを起こしてしまう。傍(そば)にいる子に唾を吐いたり、突き飛ばしたりして、泣かせてしまうんです。すぐに私が謝って、その場は何とかおさまるんですが、子供たちはだんだんまなと遊ぶのを厭がるようになってしまう。
 ある日、母子グループのリーダー格のひとから、はっきり言われてしまいました。
 みんなと仲良くできない子は、ここへ来るのは遠慮してくれる? 
 彼女たちにしても、仕方がなかったのでしょう。自分の子を守りたい。当たり前のことです。
 ただ、私はつらかった。
「でも、まなちゃんは、そのままじゃ困るわよね。女の子だものね。ちゃんとしつけして直さないとね」
 しつけ?
 私は唇を噛(か)むしかありません。
 夫は抛っておけと言う。姑はしつけをして直せと言う。
 ちゃんとしつければ、必ず直る。
 本当に、そうなのでしょうか?

     *

 まなには、意地の悪いところがありました。
 いとこの将斗(まさと)くん、もとの夫の妹であるゆかりさんの息子さんは、まなよりひとつ齢下(としした)でした。ゆかりさんは将斗くんを連れて、ときどきうちに遊びに来ました。たいがいは姑も一緒です。ゆかりさんはさばけて話のしやすいひとだったし、実の娘の強みで、姑にもばしばし言い返してくれるので、ありがたい存在でした。夫と離婚するときも、私をかばってくれたのは、ゆかりさんだけです。
 将斗くんは、まるまるとふとった男の子でした。まなは、いつもこの子をいじめるんです。
「でぶ」
「嫌い。こっち来ないで」
 身も蓋(ふた)もない言葉で罵(ののし)る。
 将斗くんが鼻水を垂らせば、まなは眉をしかめます。
「きったなーい」
 将斗くんがまなの絵本に触ろうとすれば、まなは本を奪い取って叫びます。
「触らないで。私の本よ」
 その都度、私は注意をするのです。そんなことを言うんじゃありません。仲良くしなさい。貸してあげなさい。おねえちゃんじゃないの。
「こんなぶた、弟じゃないもん」
 まなは聞きません。さいわいというか不思議というか、それでも将斗くんはそんなまなに近づいて行くし、どう言われても機嫌を損ねないんです。まなに容赦なく突き飛ばされて泣かされたりもするのですが、すぐに泣き止んでまなのあとについて行く。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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