よみもの・連載

本日はどうされました?

第八章 栗林明里(くりばやしあかり)の話

加藤 元Gen Kato

     *

 孝輝が死んだあと。
 信次くんとは気まずくなって、私たちは会わないようになりました。
 あなたが話を聞きに来たという知らせは、信次くんからのひさしぶりの連絡だったんです。
「『まなちゃん』のことを調べているんだそうだ」
「どうして?」
「彼女は、ひとを殺したんじゃないかという疑いを持たれているみたいだ」
「どういうこと?」
 私たちは、話し合いました。話すうち、罪悪感から底の方に追いやられていた疑問が、ふつふつと浮かび上がって来たんです。
 もし「まなちゃん」が、あなたが追っているような罪を犯すような人間であるなら、孝輝の死だって、事故ではなかったのじゃないか。
 あの夜、居酒屋で孝輝と一緒にいたのは、やはり「まなちゃん」ではなかったのか。そして「まなちゃん」は、孝輝になにかしたのではないだろうか。
 以前「まなちゃん」が孝輝に話したことは、冗談じゃなかったのではないか。
 ひょっとしたら、お酒に睡眠薬を混ぜて、ふらふらになった孝輝を路上に置き去りにしたのではないだろうか。
 理由? 
 わかりません。
 ただ、孝輝と「まなちゃん」は、うまく行ってはいなかった。信次くんや私が孝輝から聞いた事情を考えれば、それは確かな気がします。
 それに、彼女はなぜ、孝輝が死んだことを同僚に話せたのでしょう?
 誰も彼女には連絡していないのに、なぜ孝輝の死を知っていたのでしょう?
 電話も彼女が持ち去って処分したのではないでしょうか。孝輝と一緒にいた証拠を失(な)くすために。

 わかっています。
 たとえ薬を盛られていたとしても、孝輝はもう灰になって、お父さんやお母さんと一緒のお墓に埋められてしまっています。今さらどうにもならない話です。
 だけど、孝輝の仕返しをすることはできますよね。
 記者さん。
「まなちゃん」を、徹底的に調べてください。
 孝輝は、弱かったし、ずるかったし、よくないところもあった人間です。でも、誰かに命を奪われていいはずはないんです。
 このままでいいわけがない。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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