よみもの・連載

本日はどうされました?

終章 記者

加藤 元Gen Kato

     一

 萩野真波(はぎのまなみ)さん。
 あなたにこんなメールを書き送るのは、実に気が重いことです。
 けれど、どうか最後まで読んでください。

     *

 はじめて会ったとき、あなたにも少しお話ししたと思います。
 E病院の取材をはじめたきっかけは、高校時代の友人に聞かされた噂話(うわさばなし)でした。当時の仲間が四人、ひさしぶりに顔を合わせて酒を飲んでいた、その席で出た話です。
「そうそう、うちのかあちゃん、このあいだまで入院していたんだけどさ。その病院、やばいんだよ」
 不意に言い出したのは、友人の中でも変わり者で、同級の連中からはいくぶん、いいや、かなり浮いた存在だった、梅田(うめだ)という男でした。もしかしたら、友人とは呼べなかったかもしれません。僕は内心、この男をかなり小馬鹿にしながらつき合っていたからです。
 当時、梅田と仲がいいのかと誰かに訊(き)かれたら、僕はきっとこう答えたでしょう。
 別に仲がいいわけじゃないよ。いつの間にかくっついて来るようになっちゃったから仕方なく仲間に入れているだけだ。わかるだろう? あいつはちょっと変だからな。
 あなたや菊村(きくむら)さんが、藤井さんに感じていたのと似たような軽侮の念を、僕は梅田に対して抱いていたわけです。
 その梅田が切り出した話を、僕は軽く受け流すつもりでした。
「やばいって、何だよ」
 訊き返すと、梅田は真顔で応じました。
「悪魔みたいな看護師がいた」
 わはははは、と友人のひとりが笑い出しました。
「おまえ、この年齢になって、まだ悪魔を怖がっているのか」
 もうひとりの友人も笑いました。
「仕方がない。おまえは昔、見ちゃったんだもんな、悪魔」
 笑われても、梅田は深刻な顔で、話を続けました。

プロフィール

加藤元(かとう・げん) 1973年神奈川県生まれ。作家。2009年『山姫抄』で第四回小説現代長編新人賞を受賞しデビュー。11年に発表した『嫁の遺言』が大きな話題を呼ぶ。他の著書に『流転の薔薇』『ひかげ旅館へいらっしゃい』『四百三十円の神様』『好きなひとができました』など。

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