よみもの・連載

渋谷スクランブルデイズ インディゴ・イヴ

第二話

加藤実秋Miaki Kato

「ははあ。確かに私の地元にも、そういうカップルがいるわ。近所に航空交通なんとかっていう施設があるんだけど、昔の仲間がバイトに行って、管制官だかエンジニアだかと結婚してた……でもそれって、夫婦っていうより『息子と母親』っぽくない? 結局『理系エリートはマザコン』ってオチ?」
 コメントしてからふと気づいて問いかけると、土橋くんはにやりと笑い、「いや。あくまで個人の感想ですけどね」とダイエット食品の広告に添えられている但(ただ)し書きのようなことを返し、オーバーサイズのジーンズを穿(は)いた脚を組んだ。腰に下げた銀色のウォレットチェーンが、ぶらぶらと揺れる。
 歳はかなり下で、見た目を含めいかにも「今どきの若者」然とした土橋くんだが、頭の回転が速くて会話のテンポもよく、一緒にいて飽きない。ずけずけものを言うところも、発想が面白く、妙な説得力がある。仕事仲間は大勢いても友だちは少なく、「身近な男=彼氏」な私にとっては貴重な存在で、照れとハンパなプライドから女友だちにも言えないようなことも、土橋くんには話せてしまう。「じゃあ、付き合えばいいじゃん」と浮かびはするが、なぜかそういう気にはならず、彼にとっても私は、色恋の対象ではないらしい。グチや悩みを話して、面白くて鋭いリアクションをもらい、私の趣味ではないものの、オシャレで人気の店も教えてもらえる。しかも土橋くんは、顔とスタイルがよく、ファッションにもうるさいようだ。
「なんで私なんかと、仲良くしてくれるんだろう」とぼんやり考えてから、今日の本題を思い出した。私はミックスナッツの器とジントニックのグラスを脇によけ、土橋くんに向き直った。
「それで、木津さんの仕事なんだけど。どう?」
「作業する環境を見せてもらえないとなんとも言えないけど、興味はあります。僕は書籍の仕事が多いので、女性誌の、写真と文章が『これでもか!』って勢いで詰まった誌面を、作ってみたいと思ってたんです」
 真顔に戻り、土橋くんも私に向き直った。ほっとしながらも、
「でも、ギャラはあんまりよくないかも。立ち上げたばかりの会社だから」
 と付け足すと、土橋くんは肩をすくめて返した。
「構いませんよ。面白ければ。僕、しばらくは時間に余裕があるので、木津さんの予定に合わせます」
「ありがとう。木津さんが喜ぶわ。私も一緒に行くから、日時を決めて連絡するね」
「了解です。高原さんと彼氏のネタも、進展があったら教えて下さい」
「『ネタ』って。私の恋愛も、『面白ければ』の対象なわけ?」
 呆(あき)れて突っ込みながら、「今の時代、笑えてなんぼなんだよ」という塩谷(しおや)さんの言葉を思い出した。

プロフィール

加藤実秋(かとう・みあき) 1966年東京都生まれ。2003年「インディゴの夜」で第10回創元推理短編賞を受賞し、デビュー。
『インディゴの夜』シリーズの他の著書に「モップガール」シリーズ、「アー・ユー・テディ?」シリーズ、「メゾン・ド・ポリス」シリーズなどがある。


インディゴの夜
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