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ニッポンをお休み!
「ニッポンをお休み!」第1回 川端裕人 Hiroto Kawabata
 唐突だが、ニッポンを休むことにした。
 日本人であることは国籍を変えでもしないかぎりやめられない。
 けれど、ニッポンはお休みできるのである。
 徒歩5分の区役所出張所に行って転出届を提出し、ニュージーランド南島のクライストチャーチ市へ。
 わずか半年だけれど、さよならニッポン。
 子どもは現地の公立小学校に通わせ、ぼくは空と町が見える丘の上の家で、優雅に執筆生活の予定。
 我ながら上出来な計画である。
 以前からニュージーランドには愛着があって、これまで何度も訪ねている。それもほとんどが、自然が多く残る南島。いつか住んでみたいと思っていたけれど、頭の中では「子どもたちが巣立ってから」というイメージが強かった。
 けれど、去年の5月頃だったか。息子が中学受験をしないと早々に決めてくれたため、ちょうどこの時期に行ってしまってもいいんじゃないかと気づいたのだった。

 なぜ、ニュージーランドなのか、と聞かれる。
 アメリカでも、イギリスでも、フランスでも、スペインでもなく、ニュージーランドというとなにか説明が必要なようなのだ。
 そこで、ぼくは色々な回答をするのだが、必ずしも一貫していない。相手に合わせて、答えを変えて述べている感がある。
 たとえば──、読書好きには、ニュージーランドは「十五少年漂流記」の少年たちの島だから。ぼくが生まれてはじめて徹夜して読んだ作品であり、思い入れが深い登場人物たちの「故郷」だ。それだけでなく、ニュージーランドを旅するたびに、無人島で2年間を生き延びた開拓者魂あふれる少年たちのイメージがだぶって見えるような「なんでもかんでも自分でやってしまう人」に出会う。その都度、ぼくは物語を思い出し、つんと甘い気分になりつつ、この国と人々のことを好きだなあと思うのだ……等々。実はこの説明で納得してくれる人はわりと多い。
 また、アウトドア好き、生き物好きの人たちには、「人と自然の距離が近く、魅力的な生き物に会えるから」と述べる。そもそもぼくがはじめてニュージーランドを訪ねたのは、当時、日本でまだ紹介されていなかった「森の妖精」フィヨルドランドペンギンの営巣地を訪ねるためだった。ニュージーランドは飛べない鳥の王国だと知り、国のアイデンティティにもなっているキウィや、世界で唯一「飛べないオウム」カカポなど、次々と魅力的な生き物に出会い、通い詰めたのがぼくのニュージーランド体験の原点だった。実際に住んで、子どもと一緒に自然探索をするのは悪くない。蛇や大型肉獣のような危険な生き物はおらず、トレッキングなどで山や森に入ったとき、心底リラックスした気分になれるのもいい。
 さらに言うと……ニュージーランドって「世界の果て」ってかんじがしませんか、と言ってみることもある。世界じゅうで核戦争が起きても生き残りそうな国として言及されるくらいで、ヨーロッパからも、アメリカからも、アジアからも、アフリカからも遠い。ポール・セローの短編集「ワールズ・エンド」の舞台に選ばれても不思議ではないくらい。ということは、これってニッポンをお休みしたい、ぼくにはますますぴったりの条件かも!
 合わせ技一本で、ニュージーランド、それも、なじみのあるクライストチャーチより他の選択肢は思い浮かばなかったというのが、正直なところなのだ。


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〈プロフィール〉
1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ入社後、科学技術庁、気象庁担当記者を経て、97年退社。98年『夏のロケット』で小説家デビュー。著書に『リスクテイカー』『川の名前』『今ここにいるぼくらは』『エピデミック』『銀河のワールドカップ』などがある。

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最後の晩餐はザリガニ!(ニッポンにただいま!)
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化石の道をたどって「ライオンと魔女」へ
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春から夏への日々(ハンツベリーだより、その3)
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