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ニッポンをお休み!
「ニッポンをお休み!」第25回 川端裕人 Hiroto Kawabata
 世界で一番美しい散歩道とまで言われるミルフォードトラックへ「最後の旅」に出かけたあと、クライストチャーチの「丘の上の小さな家」に戻ってきた。
 ビザの期限にはまだ10日ほどあり、ぎりぎりまで滞在する予定だった。
 もう遠くには行かず、何十回も通ったダイヤモンドハーバーで埠頭からの釣りを堪能したり、川でウナギを捕まえたり、ニューブライトンの観光埠頭から中国人と一緒に蟹釣りをしたり……この土地での日常をかみしめよう、と。
 また、お別れを告げる日々でもあった。
 前にも述べた通り、学校はクリスマス前に終わってしまい、2月に新しい学年が始まるまで、長い休暇が続く。クリスマスから年末年始は旅行する家族が多いのだが、それでも、地元居残り組はいる。
 娘のクラスメイトでは、近所のダニエラに連絡がついたので、ぼくがクラスのイベントなどで撮った写真を、オトモダチ全員分、託しておいた。息子の方は、親が学校理事会メンバーで息子が生徒会長という出来すぎ君ファミリーを訪ねることができた。本当に世話を焼いてくれた一家で、母親のモニカにもずいぶん助けてもらったから、お別れが言えてよかった。
 あとは、半年間使った道具で、必要なくなったものの引き取り手を探したりするうちに、淡々と過ごすつもりがずいぶん忙しくなったのだった。
息子のクラスメイト一家とお別れの写真。
息子のクラスメイト一家とお別れの写真。
雑多なものを引き取ってもらう。なぜか、ひこにゃんがいる(笑)。
雑多なものを引き取ってもらう。
なぜか、ひこにゃんがいる(笑)。
 そんな中、最後にして最大のカルチャーショックが、やってきた。
 ぼくたちが借りていた小さな家は、地主であるフランス人・ニュージーランド人夫婦が、新婚時代にみずから建てたものだ。彼らは今では子どもが2人おり、大きな母屋に住んでいる。
 さて、いざ、家を返すわけだが、日本の場合、借り手が引き払った後で、貸し手がクリーニング業者を入れて次の賃貸に備えるのがよくあるパターンだ。ぼくがこれまで住んできた物件は、すべてそうだった。
 けれど、この国では、借り手が完璧にクリーニングして返さなければならないという。少なくとも、ぼくたちが唯一知っている家主は、そう主張した。
 これが、予想以上に大変だった。
 もちろん、掃除はするのである。それが、日本で引っ越しするときの感覚では済まない。
 ガスコンロやその周辺など、黒い煤(すす)や油がついているのを一生懸命落として、さあ、きれいになったとぼくが思っていても、「まったくきれいになっていない」と180度意見が食い違う。じゃあ、ぼくらがいなくなった後に、専門のクリーニング業者を入れて、かかった代金を請求してくれと頼んだのだが、それも面倒らしい。
 正直、途方にくれた。
 なにしろ、「きれい」の基準が違うのだ。
 いくら掃除しても、そこのところが食い違う限り、相手に満足してもらうこともできないし、こっちも無駄な努力をすることになってしまう。
 ちなみに、「きれい」の基準の違いは、彼らの方がよりピカピカ好きという側面はあるものの、だからといって、ぼくの方がずさん、というわけでもない。いや、かなりずさんだとは思うが、ぼくの方がより気を遣っている部分もある。たとえば、彼らは「ピカピカ」であることを優先するあまり、時々、目に見えないところの衛生面には無関心だ。また、彼らが住んでいる母屋は、ぼくの目から見てもゴチャゴチャした片付いていない部屋が結構ある(ぼくが言うのだから相当である)。けれど、「クリーンはクリーンだ」と言い張る家主の前に、「どこまでやればクリーンなのか」とぼくは心底途方にくれたのだった。
時にはこんなふうに、外にテーブルを出して食事したこともあったっけ。夏は本当に日が長いのです。
時にはこんなふうに、外にテーブルを出して食事したこともあったっけ。
夏は本当に日が長いのです。


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〈プロフィール〉
1964年兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業。日本テレビ入社後、科学技術庁、気象庁担当記者を経て、97年退社。98年『夏のロケット』で小説家デビュー。著書に『リスクテイカー』『川の名前』『今ここにいるぼくらは』『エピデミック』『銀河のワールドカップ』などがある。

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最後の晩餐はザリガニ!(ニッポンにただいま!)
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