サイバーセキュリティにくわしい小説家・一田和樹が出題する、ネット時代の新常識クイズ第8問!
今回はフェイスブックの「いいね」数ランキングについてのクイズです。フォロワー数ランキングと似た傾向です。
フェイスブックの「いいね」ランキング20位にランクインしている国営および政党のメディアは、10位の中国のCGTN(国営テレビ局中国中央電視台中国グローバルテレビジョンネットワーク、中国環球電視網)と、13位の中国共産党のChina Dailyのふたつである。上位20位以内には他の国営メディアあるいは政党関連のメディアはランクインしていない。中国にはこれらの他に、フェイスブックのフォロワー7,200万人の人民日報(新聞)や同じくフォロワー7,000万人の新華社(通信社)がある。中国国内ではフェイスブックを利用できないようになっており、これらのメディアは国外に向けて英語で情報を発信している。
純粋に中国の情報を求めてフォローしている利用者もいる一方で、中国のネット世論操作部隊のアカウントも多数存在していると考えられる。香港の民主化デモや台湾の選挙に際して、これらのネット世論操作部隊のアカウントがフェイスブックやツイッター社に停止された事件も起きている。
「Beijing's Global Megaphone: The Expansion of Chinese Communist Party Media Influence since 2017」(2020年1月、Freedom House)ではその目的は下記の3つであり、ソフトパワー(文化や価値観によって理解や共感を得る影響力)強化を狙っていることがわかる。
- 中国と統治体制に対するポジティブな見方を広める
- 海外から中国への投資を推奨し、海外への中国の投資と戦略的提携を奨励する
- 中国への批判やネガティブな言説をなくす
この目的を達成するために中国が行っているのは次の4つで、主に3番目の役割を担っているのが、CGTN、China Daily、人民日報、新華社である。
- 現地の中国人移民のメディアと連携し、中国批判を抑える
- 相手国の情報インフラの中枢に関与する
- SNSとデジタル・テレビ会社経由で中国政府よりの政治色のあるコンテンツを提供する
- 中国は他の国の模範であることを広める
中国政府は各国の現地の放送局に投資し、支援するなどの活動を行う他、メディア関係者に対するセミナーやトレーニングも提供している。フリーダム・ハウスの2018年の報告書によると調査対象の65カ国のうち36の国がそれに参加していた。2019年のOpen Technology Fundの報告によれば2019年には世界中で75カ国に増えていた。また、南アフリカは中国に批判的な記事の検閲に協力している。
Pew Research Centerの2018年の調査「5 charts on global views of China」(2018年10月19日)によれば世界各国の中国に対する認識はじょじょに好転しており、こうした中国のソフトパワー増大に貢献していると考えられる。
日本にいると意識することはないが、中国はSNSやメディアを通じて世界を親中国にしようとしているのである。
参考
DIGITAL2020(2020年1月30日、we are social)
https://wearesocial.com/blog/2020/01/digital-2020-3-8-billion-people-use-social-media
Beijing's Global Megaphone: The Expansion of Chinese Communist Party Media Influence since 2017(2020年1月、Freedom House)
https://freedomhouse.org/report/special-reports/beijings-global-megaphone-china-communist-party-media-influence-abroad
5 charts on global views of China(2018年10月19日、Pew Research Center)
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2018/10/19/5-charts-on-global-views-of-china/
How the Chinese Government Fabricates Social Media Posts for Strategic Distraction, not Engaged Argument.(2017年8月29日、Gary King, Jennifer Pan, and Margaret E. Roberts. 2017. American Political Science Review, 111, 3, Pp. 484-501)
https://gking.harvard.edu/50C
Information operations directed at Hong Kong(2019年8月19日、ツイッター社ブログ)
https://blog.twitter.com/en_us/topics/company/2019/information_operations_directed_at_Hong_Kong.html
Removing Coordinated Inauthentic Behavior From China(2019年8月19日、フェイスブック社ニュースルーム)
https://about.fb.com/news/2019/08/removing-cib-china/
- プロフィール
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一田和樹(いちだ かずき) 東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。
10年、「檻の中の少女」 で島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険』『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』『キリストゲーム』『絶望トレジャー』など。
http://www.ichida-kazuki.com/ Twitter:@K_Ichida
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