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最新!世界の常識検定

サイバーセキュリティにくわしい小説家・一田和樹が出題する、ネット時代の新常識クイズ第12問!
世界でもっとも利用者の多いSNS=フェイスブックはネットが普及していない地域に無償のインターネットサービスを提供しています。


フェイスブックはインターネットがまだ普及していない地域に無償のインターネットサービスFree Basicsを提供している。対象はグローバル・サウス(アジア、ラテンアメリカ、アフリカ)であり、中でもアフリカでは多くの人々が利用しています。現在、Free Basicsは世界40カ国で展開しており、その半数以上はアフリカの国々である。
これらの国の多くではインターネット=フェイスブックの世界ができているが、自由にさまざまなインターネットを利用できるわけではない。それはフェイスブックおよび関係サービスの利用促進でしかなく、デジタル植民地という批判もある。
前回のクイズ11で明らかにしたようにフェイスブックの利用者の7割以上はグローバル・サウスにいる。そして今後人口の増加や経済の急速な発展が期待されているのもこの地域なのである。

メディア研究誌Media, Culture & Societyに2020年4月22日に掲載された「Access granted/ Facebook’s free basics in Africa」には詳細なFree Basicsの歴史が解説されている。特に注目すべきなのはフェイスブックがFree Basics普及の戦略を大きく発展させた点である。
2010年にフェイスブックはテキストベースでフェイスブックのみを利用できる無償サービスFacebook Zeroを行っていた。このサービスは2012年5月の段階で、アフリカの国々を中心とした45カ国で展開されていた。グーグルやツイッターなど競合他社も同様の無償サービスを開始した。
本格的な無償インターネットサービスの発端は2013年8月にフェイスブック創業者CEOマーク・ザッカーバーグが公開したホワイトペーパー「ネット接続は人権か?」だった。この時点で世界の三分の一がネットにつながっており、残る約50億人はネットにアクセスできてはいなかった。
数日後、フェイスブックはネット接続を普及させるInternet.orgを複数の企業とともに立ち上げた。Internet.orgはその名称からNPOのような団体をイメージさせるが、フェイスブックを中心とした企業の組織である。その目的は、無償ネットサービスを普及させ、そこに利用者を囲い込むことである。
2014年7月にInternet.orgは、アフリカのザンビアのモバイル通信事業者Airtelとともにモバイルに焦点を絞った無償サービスInternet.org appを開始した。そこではフェイスブック、グーグル、ウィキペディア、およびスポンサー企業、政府、NPOなど13のサービスを利用することができた。しかし、自由にインターネットを使えるわけではなく、限定されたサービスにのみ接続できた。
2013年の時点でのフェイスブックの狙いはインドだった。莫大な人口を擁しているにもかかわらずネットに接続できていたのは15%のみ。格好のターゲットだった。2014年10月にマーク・ザッカーバーグはインドの首相に面会し、6つの州でサービスを開始することになった。
しかし、インドの人権活動家やインターネット団体から「フェイスブック中心の箱庭だ」、という批判などの激しい抗議に遭った。フェイスブックはこの段階で誤解を受けやすいInternet.org appという名称をFree Basicsに変更している。
結局、インドでの抗議は続き、インド電気通信規制庁は2016年2月にFree Basicsを含む無償サービスを禁止せざるを得なくなった。

この失敗からフェイスブックは学び、戦略を転換した。アフリカの市民社会に受け入れられるために、アフリカの実績あるNPO、Praeklt FoundationとともにPraeklt Foundation Incubator for Free Basicsという組織を立ち上げた。この組織を通じてフェイスブックはアフリカのデジタル市民社会との接点を持った。
フェイスブックは同時にWi-Fi hotspotsのサービスを南アフリカに展開し、その後Express Wi-Fi KenyaをインターネットプロバイダSurfとともに開始した。こうした活動が現地の起業家を動かし、彼らはExpress Wi-Fi のデータ料金の販売事業を手がけるようになった。そしてその販売の際にFree Basicsをオプションで付けていた。
さらにアフリカのNPO、 Internet Societyと共同でのIXPs(インターネット相互接続点)を設置、ナイジェリアに光ファイバーを敷設したり、海底ケーブルSimbaを敷設、アフリカの代表的ファクトチェック団体であるAfrica Checkをパートナーに迎えるなど多岐にわたる活動を展開した。
フェイスブックのこれらの活動によってアフリカではFree Basicsが広く普及するにいたった。
普及の背景にはフェイスブックの活動だけではなく、アフリカ固有の問題もあった。アフリカでは権威主義の国が多く、言論を統制、監視するため必要に応じてインターネットをシャットダウンしたり、言論弾圧のためのサイバーセキュリティ法を制定したり、SNSの利用に課税したりしていた。そういう状態で苦しんでいた市民団体や抗議団体にフェイスブックは支援の手を差し伸べたのである。
「The Rise and Fall… and Rise Again of Facebook’s Free Basics: Civil Society and the Challenge of Resistance to Corporate Connectivity Projects.」(2020年4月21日、MIT  Global Media Technologies and Cultures Lab)によれば2019年の時点で世界で65カ国、アフリカでは最大で32カ国(2019年7月の時点では28カ国)がFree Basicsを提供していた。

インドでFree Basicsが禁止された時点で世界の関係者の多くはもう普及しないだろうと考えたが、フェイスブックの戦略転換はアフリカを中心とした普及を促進することとなった。
ちなみにエジプトでもFree Basicsは禁止されたが、その理由はフェイスブックが政府の監視を拒否したためだった。

Free Basicsの利用人口については2016年11月に4千万人、2018年にはほぼ1億人に達していたことがわかっているが、それ以後数字は公開されていない。前回のクイズ11で見たようにフェイスブックの利用者は1年間で3億人増加している。このうち1億人は欧米での増加によるもので、グローバル・サウスでは2億人増加している。この2億人のうちかなりの部分がFree Basicsの利用者である可能性は否めない。

なお、前述のようにFree Basicsはデジタル植民地という批判も多く、急激なネットの普及が社会の分断や不安定化を招く側面も懸念されている。

出典
facebook connectivity
https://connectivity.fb.com/free-basics/
Access granted/ Facebook’s free basics in Africa(2020年4月22日、Media, Culture & Society)
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0163443719890530
The Rise and Fall… and Rise Again of Facebook’s Free Basics: Civil Society and the Challenge of Resistance to Corporate Connectivity Projects.(2020年4月21日、MIT  Global Media Technologies and Cultures Lab)
http://globalmedia.mit.edu/2020/04/21/the-rise-and-fall-and-rise-again-of-facebooks-free-basics-civil-and-the-challenge-of-resistance-to-corporate-connectivity-projects/
Leaked documents show Facebook leveraged user data to fight rivals and help friends(2019年11月6日、NBC)
https://www.nbcnews.com/news/all/leaked-documents-show-facebook-leveraged-user-data-fight-rivals-help-n1076986
Facebook and the New Colonialism(2016年2月11日、The Atlantic)
https://www.theatlantic.com/technology/archive/2016/02/facebook-and-the-new-colonialism/462393/
'It's digital colonialism': how Facebook's free internet service has failed its users(2017年7月27日、ガーディアン)
https://www.theguardian.com/technology/2017/jul/27/facebook-free-basics-developing-markets
Digital colonialism is threatening the Global South(2019年3月13日、アルジャジーラ)
https://www.aljazeera.com/indepth/opinion/digital-colonialism-threatening-global-south-190129140828809.html

プロフィール

一田和樹(いちだ かずき) 東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。
10年、「檻の中の少女」 で島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険』『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』『キリストゲーム』『絶望トレジャー』など。
http://www.ichida-kazuki.com/ Twitter:@K_Ichida

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