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サイバーセキュリティにくわしい小説家・一田和樹が出題する、ネット時代の新常識クイズ第14問!
デジタル・シルクロードは中国の経済圏構想=一帯一路に含まれるネットの普及と利用に関する構想です。しかし、その実態と全貌は明らかではありません。謎に包まれたデジタル・シルクロードに関する問題です。


前回のクイズ13で書いたように中国は測位衛星を世界でもっとも多く保有している。しかし、これはデジタル・シルクロードで中国が行っていることのごく一部である。中国は経済圈構想=一帯一路の一部としてデジタル・シルクロード構想を推進しており、包括的なネットワークを世界に張り巡らそうとしている。概観すると下表のようになる。

デジタル・シルクロードの4領域
領域 項目 内容
物理的設備 次世代通信網(5G) 80以上の国において展開。
投資規模は9兆円
光ケーブル
海底ケーブル(PEACEなど)
データセンター
先端技術の開発、利用 測位衛星(GPS) 世界最多。一帯一路を中心に利用が普及しつつある。
AI AI監視システムで世界のトップを走る。
軍事利用にも積極的。
ネット世論操作にも活用。
量子コンピュータ 量子コンパス、量子レーダー、暗号通信の解読など
E-commerce デジタルフリーゾーンとモバイル決済を広げる。
先端技術に関する国際規範 国際機関において議論をリード
戦略的技術競争と世界秩序 サイバー主権の主張など
『Issues & Insights Vol. 19, WP8 - China's Digital Silk Road: Strategic Technological Competition and Exporting Political Illiberalism』(2019年8月1日、Pacific Forum)より作成

表にあるように、デジタル・シルクロードがカバーしている範囲は、光ファイバーや海底ケーブルの敷設、AI監視システム、量子コンピュータ、量子コンパス、量子レーダー、測位衛星といったものからサイバー主権の主張などにおよんでいる。量子コンパスは言わば測位装置で、測位衛星なしで位置を測位できる。量子レーダーは高精度レーダーである。量子コンピュータは最先端のコンピュータであり、暗号の解読にも用いることができる。そのため、保有する光ファイバーや海底ケーブルの通信を傍受し、暗号化された通信を復号することが可能になる。
これらのいくつかの分野では中国は世界のトップを走っている。前回のクイズの測位衛星の数、5G(次世代モバイル通信)、AI監視システムなどがそうだ。

デジタル・シルクロード構想は経済圏構想=一帯一路の一部であることからわかるように、他国に技術を積極的に提供している。提供を受けた国では為政者が自国の権威主義体制を守るために使うことも多い。たとえばAI監視システムにおいては中国企業の世界シェアはずば抜けて大きい。
アフリカのウガンダとジンバブエにHUAWEIが製品を納入した際には、政治的に敵対する相手の盗聴、盗撮、暗号の復号、位置の捕捉といったスパイ行為を行えるようにサポートしていた。この件は『ウォール・ストリート・ジャーナル』に暴露された。
オーストラリア戦略政策研究所のプロジェクト『Mapping China's Tech Giants』によればHUAWEIは2017年には40カ国、2018年には90カ国(230カ所)に都市監視システムを販売したという。そして販売の際には中国輸出入銀行がローンを提供している。
いまやそのネットワークを通じて中国に情報が集まっている。欧米から「中国はデジタル権威主義を輸出している」と批判されるゆえんである。

中国の目的は、自由な資本主義と不自由な統治による体制の擁護と拡散にあると考えられている。クイズ2で見たように、世界の多数の国は現在、自由な資本主義と不自由な統治を行っている。中国は現在の国際秩序を破壊したり、自国の覇権を過度に広げようとはしていない。自由で開かれた資本主義は中国ならびに世界の多数派である権威主義国家にとって利便性が高いのだ。わざわざ壊す必要はない。
米中貿易戦争においてアメリカがHUAWEIやZTEを排除しようとしているのは中国が自由で開かれた取引をしていないからではない。安全保障上の問題が主であり、中国はむしろ開かれた自由な貿易を求めている。
デジタル・シルクロードで実現される高度監視システムと自由で開かれた資本主義が共存する社会は権威主義という体制にぴったりだ。中国はそのための仕組みを各国に輸出している。
この点が現在の民主主義的価値を重んじる国々とは相容れない。しかし、すでにクイズ2でも見たように民主主義は世界的に後退しており、次の新しい世界への移行が進んでいる。中国は新しい世界への移行でも先端を走っていると言える。

出典
Issues & Insights Vol. 19, WP8 – China’s Digital Silk Road: Strategic Technological Competition and Exporting Political Illiberalism(2019年8月1日、Pacific Forum)
China’s Digital Silk Road: A Game Changer for Asian Economies(2019年4月30日、THE DIPLOMAT)
https://thediplomat.com/2019/04/chinas-digital-silk-road-a-game-changer-for-asian-economies/
「ネットの海の道」地球30周分 米中しのぎ削る(2018年10月29日、日経新聞)
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/submarine-cable/
China’s Next Naval Target Is the Internet’s Underwater Cables(2019年4月19日、Bloomingberg)
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2019-04-09/china-spying-the-internet-s-underwater-cables-are-next
The Global Expansion of AI Surveillance(2019年9月17日、カーネギー国際平和財団)
https://carnegieendowment.org/2019/09/17/global-expansion-of-ai-surveillance-pub-79847
Exporting digital authoritarianism The Russian and Chinese models(Alina Polyakova, Chris Meserole)
https://www.brookings.edu/research/exporting-digital-authoritarianism/
Mapping China's Tech Giants(2019年4月18日、オーストラリア戦略政策研究所)
https://www.aspi.org.au/report/mapping-chinas-tech-giants
Huawei Technicians Helped African Governments Spy on Political Opponents(2019年8月15日、ウォール・ストリート・ジャーナル)
https://www.wsj.com/articles/huawei-technicians-helped-african-governments-spy-on-political-opponents-11565793017

プロフィール

一田和樹(いちだ かずき) 東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。
10年、「檻の中の少女」 で島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険』『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』『キリストゲーム』『絶望トレジャー』など。
http://www.ichida-kazuki.com/ Twitter:@K_Ichida

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