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サイバーセキュリティにくわしい小説家・一田和樹が出題する、ネット時代の新常識クイズ第27問!
今回は、監視資本主義についてのクイズです。監視資本主義という言葉はNetflixのドキュメンタリーで一気に有名になりました。しかし、Netflixのドキュメンタリー「監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影」はそのごく一部を紹介したにすぎません。


監視資本主義とは、人間の行動を原材料に、未来の行動を予測して商品に変える仕組みだ。利用者の行動は監視され、分析され、予測される。SNS企業は利用者のプロフィールや行動(どの投稿を読んだか、誰をフォローしているか、どのリンクをクリックしたかなど)の詳細をデータとして蓄積し、次の行動を予測することで効果的な広告をスポンサーに提供できるようになる。
原材料はタダである。サーバーなど原材料を収集するためのコストはかかるが、原材料の対価として支払われるものではない。牛肉をタダで仕入れられるステーキ屋のようなものだ。それどころか、哲学者マルクス・ガブリエルは、利用者が使った結果でグーグルが収入を得るなら利用者は労働者なのだからグーグルは賃金を支払うべきだ、とまで言っている。

人間の未来の行動はオンライン広告として商品化され、急速に市場を拡大した。当初、インターネットは自由な空間であり、法制度の縛りがほとんどなかったため、グーグルやフェイスブックなどの監視資本主義企業は自由に事業を展開することができた。
監視資本主義企業は莫大な量のデータを集積し、利用者の行動(発言、いいね、フォロワー、クリック、閲覧時間など)はもちろん、利用者と同じような生活環境、過去の経験、能力、収入、性格、嗜好(しこう)を持つ人物の情報も蓄積しており、そこから生まれる予測や選択肢(レコメンデーション)は正確だ。さらに、より正確な予測を行うため、より多くの情報を集めるとともに利用者の行動を誘導している。その結果、SNS依存症などの弊害が生まれた。Netflixのドキュメンタリーが焦点を当てているのは、この依存症の部分である。

監視資本主義は、さまざまな産業=保険、自動車などにも広がっている。人間の過去の行動のデータを持ち、未来の行動を予測できるのだから当然だ。利用者個々人だけでなく、国レベルでの予測も可能になった。たとえば6億人の利用者を持つ中国のBaiduは、そのデータを解析して、失業率や消費指数などの経済指標を予測できると語った。
監視資本主義は、Pokémon GOはポケモンが出てくる場所に人々を誘導し(一部の人は、罪の意識もなく他人の家の庭に入り込むなど犯罪行為まで行った)、ロボット掃除機ルンバは掃除を通じて収集した利用者の家の見取り図を作成して商品化する予定で、スマートTVは視聴内容をリアルタイムで記録する(ゲームやDVD、スカイプなどの視聴も記録できる)。人がTVを見ている以上にTVは人を観察しているのだ。24時間健康状態をモニターするウェアラブル機器はその典型だ。
街全体をIT化するスマートホームやスマートシティでは、住人は24時間包括的な監視システムの下におかれ、個々人の行動から経済活動までを監視し、予測し、監視資本主義企業と自治体の利益を最大化するための最適な運営を行う。SNSを使っていない人間も生きているだけで監視資本主義に組み込まれる。

監視資本主義は法規制がほとんどないことをいいことに発展してきた。現在、EUを始めとする各国が法整備を行っている。

The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power (Public_Affairs、2019年1月)
The Reality Game: How the Next Wave of Technology Will Break the Truth(PublicAffairs、2020年1月7日)
全体主義の克服(集英社新書、2020年8月17日)

プロフィール

一田和樹(いちだ かずき) 東京生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。
10年、「檻の中の少女」 で島田荘司選 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『女子高生ハッカー鈴木沙穂梨と0.02ミリの冒険』『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』『キリストゲーム』『絶望トレジャー』など。
http://www.ichida-kazuki.com/ Twitter:@K_Ichida

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